KANA

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『私の名前』
私に名前はない。
幼い頃、道端に捨てられていた私を宿の主人は拾ってくれた。
けど、そんな私はこの宿で存在なきものとして扱われている。
みんな名前で呼び合っていて、とても羨ましくなる。
けど、私のことを愛して名前を呼んでくれる人などいない。
分かりきっていることだけど、考えていると目に涙が浮かんでくる。
いくら堪えても、涙が止まらない。
いままでも、堪えて、堪えて、涙を流さないよう、弱い所をさらけ出さないように。
耐えてきた。
だけど、疲れてしまったんだ。
私が泣くと空も共鳴した。
私が泣けば雨が降り、私が大声で嘆けば雷雨になる。
だから、誰にも悟られぬように堪えてきたが、もう、無理なんだ。
その日から雨が止むことはなかった。

7/20/2024, 1:30:40 PM