『貝殻』
海の近くで育った
わたしの記憶の始まりの頃
モンペにエプロン、姉さんかぶりをした
小柄なおばあちゃん達が
たくさんのシジミを
小刀を使い身と殻に分けるのを
2つのザルに身と殻が溜まっていく、
その速さに釘付けになり
ずっとしゃがんでみていた。
目の前にじっと座り込んでいたちいさな子は
おばあちゃん達からみたらどうだったんだろう?
作業の邪魔ではなかったか、
大人になったいま思う
と同時に
大人になった私の目に
おばあちゃんと小さな女の子の
姿はとても愛おしく見えるだろう
『些細なことでも』
心が弱っているときは
些細な言葉が引っかかる
美容院で
色を決めきれなくて悩んでいると
「時間もないので切りながら考えましょう」
の、
「時間もないので」が引っかかり
施術中ずっともやもや
不快に感じたわけではなく
少し時間が経った今
何故それが引っかかったのか
わからない
けれど、もう行かないかも、とは思っている
数日経っても鏡を見るたび
違和感を覚える
『心の灯火』
大切に点けた火は
大切に心の奥に
わたしだけがわかる明るさだけど
何気ない言葉でも
吹き付けられて消えるのが怖いから
わたしの中に灯る火があることは
誰にも悟られないように
不規則に揺らぐ火を
両手でそっと包むように
『開けないLINE』
ひらけない/あけない
小さなすれ違いの積み重ねから
縁が切れてしまった友だちがいた
思い切ってLINEを送ったけれど
既読がつかないのを見るのが怖くて
あるいは、付いていてもリアクションがないとしたら
…と怖くて
そのままにしていた
けれどずっと心の底に残る塊が気持ち悪くて
年賀状を出してみた
数ヶ月後届いた返事には
倒れて入院していたこと
倒れたはずみで携帯が壊れ
連絡が取れなかったと
手紙の最後にLINEのIDが書かれていたことに
ここ数年の塊が消えていくようで
けれど、検索しても出てこない
今度はわたしのIDを添えた手紙を書いてみよう
『不完全な僕』
わたしの好きな舞台作品のなかに
「Nobody is perfect」という歌がある
その舞台の登場人物たちは
自分の“足りないところ”を自覚していて
抱えているのだけれど
でも完璧な人なんていないことが分かれば
その中でベストを尽くせばいい、こともわかる
というテーマがあって
たまに、実生活でもその歌詞を思い出す
そしてそれを歌っていた役がしていた
「深呼吸して手を2回叩く」
は、
自分の出来なさと
できることに最善を尽くすことを
思い出させてくれる