終わりのささやきが、
どこからか聞こえてくる
もう終わりなんだよ…
もう取り返しがつかないんだよ…
もうあの頃には戻れないんだよ…
木の陰からそっと、紙の折り目からそっと
たしかに聞こえる。
それでもやっぱり、
終わらせるのは自分だから。
まだ簡単に終わらせることに納得していない。
私の心がそう動くから。
心がへこたれない限り、しぶとく続けたいんだ。
来世ではよろしく!
そっちではその選択肢をとるかもね
でも、今は最大限自分を納得させるために
生きてるから、まだまだ、終わらせたくないんだ
星の明かりに照らされて、
1台の自動販売機が駐車場の脇にたたずんでいる。
今日は風が強い夜なので
近くの公園の木が音を立てて揺れていた。
そのとき、一人の女の人がベンチに座り
ハンカチを片手に泣いているのが見えた。
最初はシクシク泣いていたが、
次第にわんわんと大泣きしているようだった。
女の人の泣いている音をかき消すように
風がゴーゴーわめいている。
自動販売機は
女の人がちゃんと帰れますように、と
その人の背中をじっと見つめていた。
カフェで向かい合って話すより
隣に座ってベンチで話したほうが
本音で話ができるとおもう
私たちは目と目でテレパシーできないから
価値観が合おうが、合わなかろうが
話し合うべきとおもう
ふたりの将来がどうなろうが
もっと泥臭くコミュニケーションしたいんだよ
何を話そうか迷っていたあのときは
ベンチに座った2人の影も
ゆらゆらしていて愛おしかったね
今はもうお互い嫌いになってもいいから
話そう、とにかく。
終わりに近くことを恐れないことが
希望にいちばん近づく手立てだよ
学生時代に、有名な小説を読んだことがある。
生涯で一度は必ず読むべきだと聞いたから
この機会に読んでおこうと思った。
長く静かな小説で、何か激しい展開はなく
穏やかな海に浮かぶ浮き輪のように
少しだけぷかぷか感情が浮き沈みする話が長く続いた。
おそらく、学生だった私のほうが
その小説よりも
喜怒哀楽の豊かな毎日を送っていたと思う。
私はときどき思い出しては、続きを読んだり
読まなかったりして物語を紡いだ。
そして、小説の最後のページが訪れた。
その小説の最後には、
落胆と喜びが同時に押し寄せるような
バッドエンドでもハッピーエンドでもあるような
死と生とが訪れたような文章が締めくくられていた。
私はしばらく呆然として、本を閉じた。
小説が終わったことで、
はじめて何かが始まった気がして、思わず目を閉じた。
お気に入りのティーセットを取り出し、
真夜中ひそやかにお湯を沸かす。
ぐつぐつとだんだん大きくなっていく音に
ぼんやり耳を傾けて、
夜の訪れとあたたかな孤独に身を委ねる。
冷蔵庫からミントの葉を取り出し、
お湯を注ぐとふわりふわりと葉が舞い上がった
真っ白なカップに注ぎ入れ、
静かな夜のぬくもりに浸るのだった