Seaside cafe with cloudy sky

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8/29/2024, 10:54:10 AM

【言葉はいらない、ただ・・・】

◀◀【向かい合わせ】からの続きです◀◀

二人がのどかな川辺の光景に心和ませ、どちらからともなく会話を再開させようとしたときだった。店内に流れていた軽快なBGMの音量が絞られていき、やがて途絶えたかと思うと代わって新たな曲がしめやかに流れ出てきた。前と比べるとシックな曲調でほろ苦くも甘いスムースジャズ。大人の夜に合うナンバーである。壁の時計を確認すると15時を少しまわったころ。ちょっと早いんじゃないかなと思いつつもアランはさして気にせず、何気なくエルンストへ顔を向けると彼は血相を変えて立ち上がっていた。
「あの、……アラン、飲み物がまだ来ませんね。早く持ってきてもらうよう言ってきます、すぐ戻りますので……失礼します」
「 ―― うん、待ってるよ」
笑顔で送り出すと一目散に店の奥へ走って行った。また問題発生のようだな ―― ひとりクスクス笑いながらアランは川辺の眺めに目を戻し、のんびりとエルンストの帰りを待つことにした。

「伯母さん、誤解しているようだから言っておくけど」
エルンストが厨房に入ると伯母がワイングラスとミネラルウォーター、カトラリーバスケットを銀のトレンチにセットし終えたところであった。
「ちょうどいいところに来てくれたじゃない、すぐに前菜も用意するから待ってて、こんな時間だから人手が足りなくて」
と言いながら忙しく立ち働いてくれていた。そんな彼女の姿に一瞬絆されそうになったが、隅に設置してあるステレオの棚を覗うと、「言葉はいらない、ただ・・・」と銘打ったロマンティックBGM集なるCDジャケットが目立って置いてあるのが見え、彼女の勘違いを正すために強い意志でもってエルンストは伯母に物申した。
「いきなりおかしなBGMに代えただろう。僕たちはそんな仲じゃない、言ったじゃないか、彼は偶然助けてくれた大恩人だって。それだけの関係なんだから、もう変なことしないでよ」
伯母からのあれ取って、これこうして、という指示に手際良く従いつつもエルンストはそう言い切った。すると伯母は意外な面持ちで完成させた二人分の前菜を一緒のトレンチに据え置いて反論する。
「だってエル、あのイケメン、あのアラン・ジュノーは、あんたがずっと話してた想い人のあのアランなんでしょう?偶然出くわしたなんて下手な言い訳しなくて良いのに、あんたってホントに……」
「いや、だから偶然出会ったのは本当なんだよ!それに……たしかに、あのアラン・ジュノーだけど、彼は僕の憧れの、尊敬する、理想の人であって、想い人じゃあない!!!伯母さんの勘違いで彼に不愉快な思いはさせたくないんだ、頼むよ!!」
ケラケラ笑っていなそうとする彼女をさえぎり、真っ赤になってエルンストは抗議した。そんな甥の必死な様子に伯母は肩をすくめてため息一つつき、
「 ―― 分ったわよ。とにかく初めてのご来店なんだし、そういうことにしといてあげる」
と、完成した前菜セットを乗っけたトレンチとワインの入ったバスケットを有無を言わさずエルンストに押しつけた。
「ほら早く、あんたがお運びしなさい。得意でしょ。彼にイイところ見せるのよ」
……全然分かってないな……相変わらず訳知り顔の人の悪い笑みで伯母に厨房から追い出され、押しつけられた一式を手に、エルンストも諦めのため息を一つついてアランの待つ席へと戻って行った。

▶▶またどこかのお題へ続く予定です▶▶

8/28/2024, 11:43:50 AM

【突然の君の訪問。】

coming soon !

8/27/2024, 2:33:28 PM

【雨に佇む】

coming soon !



めっちゃ書き直した…………(;´Д`)

8/26/2024, 2:51:46 PM

【私の日記帳】

ここ最近、ある続きものを書くのが楽しくて仕方がない。なにかに取り憑かれたようにせっせと書き散らしては披露するという毎日。果たして最後までたどり着けるのだろうか……てかなぜ書く毎に長くなっていくのだろう……次からはもっと短くまとめられますように。私の執筆日記でした✦ハート飛ばしてくださる方、ありがとうござります✦( ;∀;)✦

8/25/2024, 7:42:56 PM

【向かい合わせ】

◀◀【鳥のように】からの続きです◀◀

病院のあった街から離れ、ふたたび田舎道に入って車は進む。地元で周辺の地理を把握しているエルンストに運転してもらい、隣の助手席でアランはゆったりと窓の外の景色を堪能していた。進むにつれ、畑や野原だけだったまわりの景色にポツンポツンと建屋があらわれだす。のどかな田舎のちょっとした工場地域に入ったようだ。店舗や民家もあって、単調な景色から彩りが増してきた光景を見るとはなしに見ていると。
「 ―― おや、これはこれは……お招きいただきありがとう、と言ったところかな?」
イダ・スティール・プロダクツ ―― エルンストの名刺と同じ企業名のパラペット看板に気づいたアランが、楽しげな眼差しでエルンストに問いかける。車を減速させながらエルンストは横顔で笑った。
「あなたの時間が許せば、後でぜひ見学していって下さい。けれどその前に、お約束どおり昼食にしましょう」
そう言って隣に立つトラットリアのような店の敷地に入り、そこの駐車場で停車した。
お待たせしました、ここです。エルンストに促されてシートベルトを外し、車外へ出たアランは伸びをしながら深呼吸して春先の肌寒い空気を思いっきり吸い込んだ。店から漂う美味しそうな香りとともに。
「うーん。君がおすすめするお店だけあるね。この香りだけでワインが進みそうだ」
うっとりした笑みを浮かべるアランを微笑ましく思いながら、エルンストが先導して店内へと足を踏み入れた。ドアベルがにぎやかに二人の来店を告げる。他に客はだれもいなかった。
「あら、エルじゃない。今日はどうしたの、こんな遅く……に……」
エルことエルンストに声を掛けつつ奥からエプロン姿の女性が出てきた。語尾がかすれたのは一緒にいるアランを目にしたからだろう、目を見開いてまじまじと見つめている。いや、どうも見惚れているようだ。小さく息を呑む声が微かに聞こえた。やはり女性は敏感に気づくんだな、なりが少々残念な状態でも、超イケメンな彼の正体が。そういえば病院でも時々女性看護師が振り向いて彼を見ていたっけ……端で興味深く様子を覗っていたエルンストだったが、すぐに気を取り直して伯母さん、と呼び掛けた。
「彼を紹介します、アラン・ジュノーさん。僕の大恩人。今日出先でトラブルがあって、偶然出くわしたジュノーさんに助けて頂いたんだ。二人とも昼食が遅くなって、せめてもの恩返しに伯母さんのスペシャルランチをご馳走しようと思って来たんだけど。お願いできるかな?」
簡潔で無駄のないエルンストの紹介口上を感心した面持ちで聞き終えたアランは、口ではなくウインクで「ブラボー!」と伝え、それからエプロンの女性へにこやかに右手を差し出した。
「はじめまして。よろしくマダム、アランとお呼び下さい……」
女性はなかば心此処にあらずといった風情でアランに見惚れたまま握手に応じて話を聞いていたが、ふとなにかに気づいてまばたきを繰り返し、アランを見据えて話をさえぎるように突然口を開いた。
「 ―― アラン……?……アラン・ジュノー……!? ―― ああ、あなたがあのアラン!?―― まあまあまあまあまあ、まさか、お会いできるなんて!光栄です、エルの伯母です、こちらこそよろしく!」
なんとも意味深な口調での激しい歓迎の辞だった。さらにはアランとエルンストを何度も見返し、訳知り顔で不敵な笑みをエルンストへと向けてくる。そんな伯母の面妖で不気味な態度に居た堪れなくなったのかエルンストは、
「 ―― ああー、それじゃあ伯母さん、僕たち空腹で倒れそうだから、なるべく早くよろしくね!」
それだけ言い残してアランの肩に手を掛け、テラスの見える大きな窓際の席へといざない、そそくさとその場を後にしたのだった。挙動不審な二人のやりとりに些か強引な切り上げ、アランは狐につままれた感でおとなしくエルンストに従って行くが、
「彼女にオーダーしなくても良かったのかい?それに……」
僕は彼女の紹介をちゃんと受けていないんだけれど……とその他の不平も滲ませたつもりでさりげなく言葉尻を濁し言外に訴えた。しかしエルンストは気づかないふりで、
「スペシャルランチこそオーダーで、なにもかも伯母さんのお任せによる逸品料理なんです。大丈夫、きっと気に入りますよ」
先ほどアランが見せたウインクを真似て答えて見せる。するとアランにはウケたらしい、上機嫌に笑って席に着き、
「頼もしいかぎりだ、エルンスト。あとのお楽しみということだね」
なにかを察してくれたのだろう。「上手く誤魔化されてあげるよ」とメッセージを込めた、先ほど以上にエレガントなウインクを向かい合わせに座ったエルンストへ送り、それ以上なにも窺うようなことはせず窓外の景色へと目を転じた。
「わあ、川辺なんだね。いい眺めだ」
テーブルに両手を組んで頬杖をつき、何事もなかったように感嘆するアラン。さすがゴールドカラー、気を利かせるのも心得たものだとエルンストはホッと心中で胸を撫で下ろし、寛大な彼と同じ景色へ目を向けた。そこには春先の淡い午後の光が水面とたゆたうようにキラキラと踊っていた。

▶▶またどこかのお題へ続く予定です▶▶

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