【神様だけが知っている星空】
coming soon !
【この道の先に】
◀◀【現実逃避】からの続きです◀◀
畑が延々に続くのどかな光景のなかを、鼻唄まじりでアランは車をひた走らせる。たしかこの道の先には小さな町があったはず ―― 記憶をたよりに頭の中で地図を思い浮かべる。そろそろお昼時、休憩を兼ねてその町で食事をしよう。どんなレストランがあるだろう?おもしろい観光スポットはあるかな?期待を膨らませながらしばらく行くと、前方に荷物を積んだ小型トラックが道からはずれて停車しているのが目に入った。傍らには作業着姿の若い男が立っていて、アランの車に向かって大きく手を振り呼び止めようとしている。なんだろう……なんだかかなり困った顔をしている。ガス欠でもしたのだろうか?新手の路上強盗の可能性もある、用心しながらスピードを落とし、アランもトラックの近くに車を停車させた。すると作業着の男は急いで駆けつけてきた。
「どうしました?なにかトラブルでも……」
ほんの少しフロントドアのウィンドウを下げて訊ねると、男は必死にウィンドウに縋りついてアランに訴えかける。
「お願いします、どうか助けてください!いますぐ、大至急、納品と病院、両方行かなきゃならないんです!!」
「……え……?」
思いもよらない懇願要請に理解がすぐには追いつけず、束の間アランは、ひよこ色の男の髪が陽光を受けてキラキラ輝くさまを、丸くした目で呆然と見つめ返すことしかできなかった。
▶▶またどこかのお題へ続く予定です▶▶
【日差し】
coming soon !
【窓越しに見えるのは】
なんてことだ!本当に吸血鬼がいるなんて!
僕は今、廃墟となった深夜の古城の一室に立て籠もって孤独に震えている。なぜかって?細かい経緯をはぶいて説明すると、僕の長所でもあり残念な短所でもある、活火山のように勢い激しい好奇心に衝き動かされたことと、短所でしかない類まれな不幸きわまるめぐり合わせが積み重なった結果によって、この古城に住みついている吸血鬼と宿命的な邂逅を果たしてしまったからだ。あの血の気の失せた不気味な肌の色、時代がかった耽美な衣装、獰猛で常人離れした怪力……まぎれもなく人外のモンスターだった。あんな魔物からここまで逃げおおせられたのは奇跡としか言いようがない。這々の体で今ひそんでいる隠し部屋を偶然さぐり当てて、こうして震えながらひたすら朝がくるのを待っているってわけ。なんてったって吸血鬼の弱点の一つは太陽の光だからね。夜が明ければあいつはイヤでも僕の捕獲を諦め、大嫌いな光から逃れるために、大人しくねぐらへ帰るしかないはず。無謀に戦うより籠城戦で逃げ切るほうが生還できる確率は高い!このかくれんぼゲームは僕の勝ちで終わらせてやるんだ!さあ、あとどれくらいだ?腕時計を見て時間を確認すると、ようやく午前の1時台……長丁場の根くらべになるな。アラームを3時間後ぐらいに設定して、少し眠って時を稼ごう……今はまだ、鉄格子のついた小さな窓から漏れてくるのは淡い月の光だけれど、目覚めたとき真っ先に目にするのは、夜明けのまぶしく神々しい「日差し」でありますように ―― それじゃ、おやすみなさい。僕の幸運を祈っててね ――
【赤い糸】
都から落ちてこられた検非違使の尉殿御一行が数日前から近くの寺に滞在されていると小耳に挟み、一目お姿を見てみたいもの……とその寺までこっそり忍び歩きに行った。着いてみると同じ考えのものがちらほらいて、キョロキョロと境内をうろつきさまよっていた。探し回っている様子から、まだ誰も目にした者はいないようだ。きっと奥に引っ込んでいらっしゃるのだろうと見当をつけ、境内を出てそっと一人で裏手の林へ向かった。ひょっとしてそこから奥の房が覗けるかもしれない。すると思ったとおりで、僧房らしき堂舎が望めた。さっそく傍の木に身を潜めて房を見渡してみると……おお、あの花頭「窓越しに見えるのは」目にも艶やかな大鎧!虫干しでもされているのだろうか、房の片隅に一揃え据え置かれてあったのが真っ先に目に入った。思いがけない眺めの見事さにしばし見惚れていると、サッと中から御簾が下ろされてしまった。これは……房に居た御仁に垣間見の気配を察知されたからであろうか?だとすればそれは心耳心眼の士のなせる御業、常勝無敗のあの方の所作に間違いない!いや残念。お姿を見ることは叶わなかったが、見事な大鎧はしかと目にすることができた。このあたりで満足して退散するとしよう。
八幡大菩薩さま、どうかかの御仁が無事に落ちのびられますよう、お願い申し上げますぞ ――