【赤い糸】
都から落ちてこられた検非違使の尉殿御一行が数日前から近くの寺に滞在されていると小耳に挟み、一目お姿を見てみたいもの……とその寺までこっそり忍び歩きに行った。着いてみると同じ考えのものがちらほらいて、キョロキョロと境内をうろつきさまよっていた。探し回っている様子から、まだ誰も目にした者はいないようだ。きっと奥に引っ込んでいらっしゃるのだろうと見当をつけ、境内を出てそっと一人で裏手の林へ向かった。ひょっとしてそこから奥の房が覗けるかもしれない。すると思ったとおりで、僧房らしき堂舎が望めた。さっそく傍の木に身を潜めて房を見渡してみると……おお、あの花頭「窓越しに見えるのは」目にも艶やかな大鎧!虫干しでもされているのだろうか、房の片隅に一揃え据え置かれてあったのが真っ先に目に入った。思いがけない眺めの見事さにしばし見惚れていると、サッと中から御簾が下ろされてしまった。これは……房に居た御仁に垣間見の気配を察知されたからであろうか?だとすればそれは心耳心眼の士のなせる御業、常勝無敗のあの方の所作に間違いない!いや残念。お姿を見ることは叶わなかったが、見事な大鎧はしかと目にすることができた。このあたりで満足して退散するとしよう。
八幡大菩薩さま、どうかかの御仁が無事に落ちのびられますよう、お願い申し上げますぞ ――
6/30/2024, 6:53:35 PM