【プレゼント】
coming soon !
【ゆずの香り】
今回のお題では、まったく物語のネタが思いつかないので、ちょっとした私ごとの雑談を一席。
ゆずは日本原産ではないそうで、けれど奈良時代には伝えられて栽培されていたそうな――というネットからの教えをいただきました。
奈良時代から平安時代。平安時代といえば、来年の大河ドラマは紫式部さまがテーマだそうですね。テレビは滅多に見ないのでよく知らないんですけれど(*_*;
そして紫式部さまといえば源氏物語。古典は好きなので、関連する本をよく読みました。その中で、そう言われればそうだ、なんで今まで気づかなかったんだろう!と教えられた本が多々ありました。まづひとつ挙げると、「平安人の心で「源氏物語」を読む」という御本。“桐壺”の話は、まんま中宮定子と一条天皇のお話なのだという指摘に、強烈な一撃を与えられた思い出があります。「枕草子」も大好きで、歴史上の女性で尊敬する女性を“中宮定子”としている自分でしたが、このことにはまったく、これっぽっちも思い至らなかった、ボーッと読んでちゃいけないな……と恥じ入った経験をしました(^_^;)
そしてもう一冊、「源氏の男はみんなサイテー」。この御本の、冷泉帝に関する……というか、この時代の特殊な考え方への指摘に、またしても間抜けな自分には刮目させられた次第です。現代の人間ならば、自分の本当の父親が別にいて、しかもその人物を部下として使っているということを知ってしまったとしたら。まあ、人によってさまざまな感情が湧くでしょう。今までいた自分の世界の崩壊による情緒不安とか、養父、実父、とくに母親への不信感……などといった精神的混乱などでしょうか。
けれど冷泉帝が恐れたことというのは、“知らなかったとはいえ、実は臣下の子である自分が帝位につき、子である自分が実の父を臣下として侍らせていたとは――なんて愚かな不孝者なんだ、自分は!”と、とにかく己の不明を嘆くという、現代人の発想にはあまりないであろう思いに煩わされるのです。なによりも先祖を敬うべし。ゆずの伝来とともに、腐れ儒者の教えも浸透していたんでしょうね。薄らいだとはいえ、今もまだそんな考え方が残ってはいますが。
最後にもう一冊、「薫の大将と匂の宮」。この御本の「六条の御息所誕生」の章での気づきには、大いに感動しました。夕顔の巻で一番初めに現れた怨霊は、当初は六条の御息所ではなかった!?どういうこと!?こいうこと!!なるほど、腑に落ちました!という、まさに章題のとおりの舞台裏のような物語。これを読んだあとは、ほろ酔い気分のような心地良さにしばし浸れました(*˘︶˘*)♡
以上、少々無理矢理感がありましたが、お題「ゆずの香り」にことよせた雑談、というか、御本の紹介でした。また機会があれば語りたいと思います。では、Ciao!
【大空】
――なにが――起こったの――?
気がついてみると、身体は横向きに伏せた姿勢で倒れていた。どんな場所でだかは分からない。両目を開いたつもりなのだが、なにも見えない。そして耳鳴りなのだろうか、正体不明の雑音が聴覚を支配しているようで、音による周辺の情報も得られない。いま、自分の置かれた状況が、まったく把握できないのだ――どうして……?
――そうだ。あのときたしか異変を感じて……ふと見上げた。穏やかな白い、昼下がりの大空を。すると、突然――――
思い出すと彼女は、じわじわと全身から毒のような恐怖が湧き上がってきたのを感じた。
――ウソだ。これは悪い夢だ。まさか、そんなこと――――だってさっきまで、ふつうの日常だったのに――――
「……いったいなにが……起こったの……?」
力なく呟くとともにこぼれる涙。そしてふたたび、彼女は気を失った。
【ベルの音】
coming soon !
【寂しさ】
とある孤児院の干し草小屋。いろんな年齢の身寄りのない子どもたちが、ふかふかの藁の上で輪になって、フランソワが読んでくれる本の物語に聞き入っていた。
「ねえ、“寂しさ”ってなに?」
途中でまだ幼いカミーユが不意に質問した。フランソワは朗読を中断し、物語の世界に浸っていた他の子どもたちもみな驚いて、水をさしたカミーユに目を向けた。
「“お姫さまは寂しさをガマンして歌いました。”って、ぼくよく分かんない、なんだか楽しくなさそうな感じだね。“寂しさ”って苦しいこと?ねえ、みんなは“寂しさ”の気持ち、知ってる?」
子どもたちはザワザワした。それまで特に気にも留めなかった言葉の意味を、カミーユのふとした疑問で意識させられてしまったのだ。
「寂しさってのは……一人ぼっちでこわい、ってことなんじゃないのか?」
少し年長のジャックが言う。
「そうかも!あ、でも、一人ぼっちで誰も遊んでくれる子がいないから、つまんなくてガッカリ!って気持ちでもあるかも」
ジャックと同い年のジャンヌ=マリーも自分の思ったままのことを言った。二人の意見が出たあとは、いっせいにみんなそれぞれ寂しさについておしゃべりしあい、干し草小屋の中はたいへん賑やかになった。
「あたしはこう思う」
おませなエリザベートが立ち上がり、魅力的な声でひときわ大きな声を出して言った。
「お母さん、お父さんのいない自分の胸に、ポッカリと大きな穴が空いてしまったような……そんな切ない気持ちが、“寂しさ”だと思う」
そう言うとエリザベートはうなだれ、干し草の上へペタンと座り、両手で顔を覆って泣きじゃくってしまった。ここに居るみんなはエリザベートと同じ、身寄りのない子どもたちばかり。小さな子はエリザベートの悲しさに特に感応してしまって、同じようにワッと泣き出してしまった。それからは年かさの子にも伝染して、やがて全員が“寂しさ”を知って涙の大合唱となってしまった。一人静かに成りゆきを見ていた最年長のフランソワは、自分にしがみついて泣くいちばん幼いレオンの小さな背中を撫でながら、みなが泣きやむまで黙ってその時を待っていた。
泣き疲れたのか、ようやく子どもたちは泣くのを止め、洟をすする音だけとなった。
「みんな。“寂しさ”の意味は、よく分かったようだね。もう質問することは無い?」
フランソワが優しく問いかける。泣いて疲れ切った子どもたちは返事をする気力がなく、ただコクコクとうなづいて見せただけだった。
「たくさん泣いたね。もうこれ以上泣けないってくらいに。そうだろう?」
再びコクコク。ウトウトしはじめた子もいる。
「それだけたくさん泣いたあとは、やっておかきゃいけないことがあるんだ。なんだか知ってる?」
今度はみんなきょとんとして首を横に振る。その様子にフランソワは悪戯な笑みを浮かべて言った。
「それはね。泣いた以上にたくさん笑うこと!さあ、今からはみんなでくすぐり合戦だ!」
Allez!フランソワの号令を聞くと、みんな泣きつかれてぼんやりしていたのも忘れ、弾んだような明るい笑い声で近くにいる子に飛びかかり、盛大にくすぐりっこをやり合いだした。フランソワもあやしていたレオンとくすぐりあって、たくさん笑った。みんなでたくさん、たくさん笑いあった。
「みなさん、もう夜の自由時間はとっくに終わりましたよ。早くお部屋へ……」
いつまでたっても戻ってこない子どもたちを探して、二人のシスターが火を灯した蝋燭を手に干し草小屋の扉を開けて中を覗き見た。するとそこには、笑い疲れた子どもたちの、みな幸せそうな笑顔で干し草に埋もれ寝入っているあどけない姿があった。その光景を目にしたシスターたちは、思わず呆れるとともに微笑み合って、彼らに掛けてあげる毛布を取ってくるため、なにも言わずにそっと扉を閉めて立ち去って行った。