Seaside cafe with cloudy sky

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【寂しさ】

とある孤児院の干し草小屋。いろんな年齢の身寄りのない子どもたちが、ふかふかの藁の上で輪になって、フランソワが読んでくれる本の物語に聞き入っていた。
「ねえ、“寂しさ”ってなに?」
途中でまだ幼いカミーユが不意に質問した。フランソワは朗読を中断し、物語の世界に浸っていた他の子どもたちもみな驚いて、水をさしたカミーユに目を向けた。
「“お姫さまは寂しさをガマンして歌いました。”って、ぼくよく分かんない、なんだか楽しくなさそうな感じだね。“寂しさ”って苦しいこと?ねえ、みんなは“寂しさ”の気持ち、知ってる?」
子どもたちはザワザワした。それまで特に気にも留めなかった言葉の意味を、カミーユのふとした疑問で意識させられてしまったのだ。
「寂しさってのは……一人ぼっちでこわい、ってことなんじゃないのか?」
少し年長のジャックが言う。
「そうかも!あ、でも、一人ぼっちで誰も遊んでくれる子がいないから、つまんなくてガッカリ!って気持ちでもあるかも」
ジャックと同い年のジャンヌ=マリーも自分の思ったままのことを言った。二人の意見が出たあとは、いっせいにみんなそれぞれ寂しさについておしゃべりしあい、干し草小屋の中はたいへん賑やかになった。
「あたしはこう思う」
おませなエリザベートが立ち上がり、魅力的な声でひときわ大きな声を出して言った。
「お母さん、お父さんのいない自分の胸に、ポッカリと大きな穴が空いてしまったような……そんな切ない気持ちが、“寂しさ”だと思う」
そう言うとエリザベートはうなだれ、干し草の上へペタンと座り、両手で顔を覆って泣きじゃくってしまった。ここに居るみんなはエリザベートと同じ、身寄りのない子どもたちばかり。小さな子はエリザベートの悲しさに特に感応してしまって、同じようにワッと泣き出してしまった。それからは年かさの子にも伝染して、やがて全員が“寂しさ”を知って涙の大合唱となってしまった。一人静かに成りゆきを見ていた最年長のフランソワは、自分にしがみついて泣くいちばん幼いレオンの小さな背中を撫でながら、みなが泣きやむまで黙ってその時を待っていた。

泣き疲れたのか、ようやく子どもたちは泣くのを止め、洟をすする音だけとなった。
「みんな。“寂しさ”の意味は、よく分かったようだね。もう質問することは無い?」
フランソワが優しく問いかける。泣いて疲れ切った子どもたちは返事をする気力がなく、ただコクコクとうなづいて見せただけだった。
「たくさん泣いたね。もうこれ以上泣けないってくらいに。そうだろう?」
再びコクコク。ウトウトしはじめた子もいる。
「それだけたくさん泣いたあとは、やっておかきゃいけないことがあるんだ。なんだか知ってる?」
今度はみんなきょとんとして首を横に振る。その様子にフランソワは悪戯な笑みを浮かべて言った。
「それはね。泣いた以上にたくさん笑うこと!さあ、今からはみんなでくすぐり合戦だ!」
Allez!フランソワの号令を聞くと、みんな泣きつかれてぼんやりしていたのも忘れ、弾んだような明るい笑い声で近くにいる子に飛びかかり、盛大にくすぐりっこをやり合いだした。フランソワもあやしていたレオンとくすぐりあって、たくさん笑った。みんなでたくさん、たくさん笑いあった。

「みなさん、もう夜の自由時間はとっくに終わりましたよ。早くお部屋へ……」
いつまでたっても戻ってこない子どもたちを探して、二人のシスターが火を灯した蝋燭を手に干し草小屋の扉を開けて中を覗き見た。するとそこには、笑い疲れた子どもたちの、みな幸せそうな笑顔で干し草に埋もれ寝入っているあどけない姿があった。その光景を目にしたシスターたちは、思わず呆れるとともに微笑み合って、彼らに掛けてあげる毛布を取ってくるため、なにも言わずにそっと扉を閉めて立ち去って行った。

12/19/2023, 12:04:13 PM