はとぽっぽ

Open App
3/24/2025, 3:30:05 AM

「相変わらず今日も浮かない顔をしているな。生きてて辛くない?もう、俺様に身を捧げた方が良くない?」

「そういうお前も、相変わらず顔色が泥水被った色になってるぞ。どうした?『お前より美味しい獲物を見つけてやるから!別に良いもん!!』て意気込んでた勢いはどこ行ったんだ?大人しく墓地に埋葬されて来いよ」



まるで僕らの顔色を表したかのような曇天の下、今日も会いたくて会ったわけでもない二人が、顔を見合わせため息を吐いた。
少し湿った風が辺りを包んでいる癖に、一向に雨も降らず、そこらに生えている草木も、日に日に斜めに傾き始めている。

「で、そっちはどうだった?」
「猫1匹見当たらないし、変わらず同族の気配も消えたままだな」

触角みたいな頭頂部の毛をくるくる回しながら、こっちも斜めに傾き始めた。
いかんいかん。

「まあ、まだ…世界の果てまで探し尽くしたってわけじゃないし、な。な。きっとどっかにまだ居るってー「だよな!うん!そうだよな!!うんうん。偶にはお前も良いこと言うじゃないか!」

僕の取ってつけたような言葉に気を取り戻したようだが、傾きからの急な伸びに、僕の肩を叩いた手を着いたまま、後ろに倒れるのを踏ん張った。


のだが、僕ももう結構疲労が溜まっているようで、引っ張られるまま、雪崩れるようにこいつの胸に倒れ込んでしまった。


「…悪い」
「…いや、僕の方こそ。重いだろ。退くよ………………

…あと、数分してからで良いか?」

踏ん張ろうとした腕に力が上手く入らない。
まさかこんなに体力がなくなっていたなんて。
考えないようにしていたけれど、終わりが近いのかも知れないと、一瞬でも過ぎったせいで、思考も上手くまとまらなくなっていく。
訳も分からず、泣きそうだ。



「いつ振りだろうか。人の鼓動を牙以外で感じるのは….」
独り言なのか、僕に言っているのか、分からないような小さな声が頭上から聞こえた。
その声が、余りにも穏やかに聞こえるものだから、落ちそうになった涙が引っ込み、頭を動かして顔を見ようとしたけれど、顎しか見えない。
けど、そうだ。
「僕も…。誰かとこんなに話したのは、久しぶりだったかも知れない」

世界が突然こうなる前、僕は所謂“ひきもこり”をしていて、ある日異様な音に目が覚めドアを開ければ、こんな状態だった。
それから、毎日彷徨い生き物を探した結果、目の前に現れたのは、この“架空の世界から飛び出してきました”みたいな、自称吸血鬼と出逢ったのだ。
最初こそ襲われそうになったものの、現在の状況をお互い認識し始めた頃には、協力しなければいけないと言う空気を察知し、休戦協定。無言で握手を交わした。

あの日から、どれだけ経ったのだろうか。
日照りも全くない世界になってしまったため、自分が唯一持っていた時計が動かなくなる頃には、数えるのをやめてしまった。
救助がその内来るだろう。なんて呑気に考えていた。







「仕方ないので、もう、あれだな。…寝るしかないな」
「じゃあ、棺に入らないと、もしも日に照らされたら、お前灰になっちゃうじゃん」
「うむ……まあ、もうそれでも良いかなって」
「はっ…なんだよそれ…」
約束した起き上がるつもりだった数分が、どんどん過ぎていっている。
けれど、体温は無い筈なのに、温かい布団に包まれるような感覚が居心地良く、僕らは瞼を眠るように閉じた。






〈雲り瞼のその先はー…〉





(不完全燃焼した。文が)

3/23/2025, 7:21:40 AM

「先生ーさようならー!」
「おー。さようならー」

伸びる影を追いかけるように、最終下校を知らせる音楽が、穏やかな風と帰りを急ぐ足音に流れていく。
つい先日まで早かった日の入りも、気が付けば日に日に延び、夏が近付いていた。


さて、そろそろ自分も片付けなければ。
色が混ざった水を流しながら、ふと見た窓の外の光景に、昔の記憶が脳裏を掠めた。

あんな風に、高く高く、別れを惜しむように手を振らなくなったのは、いつの頃だっただろうか。








「先生、まだ、残ってた」
少し沈むような空気が漂う中、息が上がったてはいるが、凛と耳に届く声が、背中越しに聞こえた。

「そう言うお前は…まだ残ってたのか。珍しい」

今日は少し暑かったのか、上下する肩に下げたリュックの口から、黒い袖が見えている。上着をリュックに押し込んでいるようだ。
荷物を手近な机に置き、腕を捲りながら横に並ぶと、ぶっきらぼうに「ん。」と、掌を僕に差し出してきた。
どうやら、片付けを手伝ってくれるらしい。

曰く、先生の片付けるペースだと、日没に間に合わないのだそうだ。




「いやはや、助かったよー。お礼にジュースでも奢ってあげよう」
「いや、いいよ。もう直ぐ帰んないといけないから」
そう言いながら、隣で校門まで押して歩いていた自転車が、思い出したかのようにピタリと止まった。

「先生………」
射抜くような真っ直ぐな瞳に、思わず視線を逸らしたくなる。
「………」
「…………………」
「……………………………………………………



…やっぱ言いや。なしで」
「…は?」
そう言うな否や、ヒョイっと何事もなかったかのように、自転車で僕の帰路とは反対方向に進んでいってしまった。

…まあ、そう。何かが起きなくて良かったのかも知れない。
少しづつ小さくなっていく背中を、見つめた後、自分も帰ろうと、ペダルに足を踏み入れた瞬間、今までで一番心に響くように僕を呼ぶ大きな声に振り返った。






〈君が付けた僕の愛称とさよならを〉

泣きそうな君に、出来る限りのエールを
何年か振りに、僕も大きくを手を振った




3/22/2025, 7:38:04 AM

ずっと言いたくて堪らなかった。


その気持ちが溢れたかのような、突然の豪雨。
最悪だ。
今日こそ伝えるんだと、ペダルを意気込むように漕ぎ出した途端これだ。

夏の暑さには丁度良くても、折角エンジンを掛けた心は、その冷たさに『やっぱり』なんて、動くのを止めようとし始めた。
僕の悪い癖だ。
虚しい。思わず足の力も緩みそうになる。

けれど、その足を止める訳にはいかった。
何故かというと、ここが急な坂道であり、後ろには君が一緒に自転車で登っている最中だったのだ。


色んなものを押し潰して、なんとか頂上に登った時だった。
さっきまでの豪雨が嘘かのように、生ぬるい風と共に光が辺りを包んだ。
すると、鈴を転がしたかのような特徴ある声が僕を呼んだ。
振り返ると、雨粒の光に反射する景色と、空を仰ぎ見ながら、笑う君の姿。

笑いながら言う。
見て見て と。
素敵な空だ と。




〈瞬き溢れる世界が見えた〉
あの日見た景色を、僕は一生忘れないだろう。