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4/15/2025, 1:23:05 AM

君は
この小さい小さいてのひらに
数え切れないほどの未来図を
握ってるんだね
私の人差し指と一緒に

4/14/2025, 3:51:08 AM

笑ってごめんね
くりくりした目で僕を見上げて
いっしょうけんめい話してる君の頭の上に
ちょうどいい感じで
木の葉がひとひら落ちてきて

子どもの頃絵本で見た
変身しようって頑張る
子ダヌキ思い出しちゃってさ

もしかしたら
人間から子ダヌキに戻るのかなって
考えたらあまりにもピッタリで

怒んないでね
子ダヌキになったって
君が好きだよ

4/13/2025, 5:31:22 AM

そもそも旅行に関心がなかった。
テレビや雑誌で国内外の美しい、或いは壮大な、或いは息を呑む、或いは…等々、絶賛の言葉とセットになっている風景を見ても、きれいだなぁと思いこそすれ、現地に行って見てみたいという気持ちは起きたことがなかった。

あまり長く生きられないかもしれない病気がわかったとき、それを打ち明けた親しい友人は、
「行きたいところとかない? どこか見たいところとかは?」
と言った。
思いやりでそう言ってくれているのだとわかってはいるものの、余命宣告をされたわけでもないのに余命宣告をされたかのようで、すこぶる不愉快になった。

不愉快ながらも改めて考えてみたが、特にこれといって行きたいところも見たいところもなかった。
頭の中で地球儀を回しながら、今まで画面や紙面で見かけた風景をあれやこれやと思い出してみたが、死ぬまでに見ておきたいような風景はなかった。

不愉快な気分のまま外に出てみると、これまた不愉快そのものといったような曇天だった。
私は駅前を目指し、何年も歩き慣れた道をちんたら進んだ。

この辺りはお世辞にも風紀のいい町とは言えない。
むしろどちらかと言うと逆だ。
昼間から酔っ払いのおじさんがフラフラしていたし、出勤時に通りがかる小さなスナックからはいつも八代亜紀を熱唱するおばさんの声が聞こえた。
飲食店のゴミを2匹の野良猫が漁っている。
高架下のスプレーの落書きや、雨よけに書かれたお店の名前が褪色して読めない古い薬局や、身を寄せ合うように並ぶどぎつい色合いの風俗店の看板は、今日も変わらずそこにある。

毎日毎日何の気なしに、そんな風景を眺めてきた。
当然、美しいなんて微塵も思っていなかった。
それなのに、死んだらこれも見られないのか、と思ったら、突然思いがけず涙が溢れた。
多くの人が称賛する世界のどこかの絶景より、私が見ていたいのは、多分この全く美しくない風景なのだ。

4/12/2025, 3:46:11 AM

朝のラジオ体操は
必ず第二体操まで全力でやる
(出張先でも厳守)
クリスマスはやらないけど
土用の丑の鰻は食べる
(結局他のものまで食べ過ぎる)
大げんかしたときは
釣り堀に行って話し合う
(着いた時点でけんかしてたことを忘れがち)
誕生日は
オムライスにろうそくを立てて祝う
(とろとろじゃないオムライス必須)

人生を遊ぶ数々の発明は
君と僕が揃ってこそ成し得るもの
君と僕
最強のコンビだと思わない?

4/11/2025, 4:58:41 AM

島田先生は、学年一人気のない先生だった。
いつも不機嫌そうな顔で、不機嫌そうに説教と連絡事項と授業に関わることだけしか話さなかった。
後退した白髪混じりの頭は、たまに後頭部が寝癖ではねていた。
人気者の先生なら、生徒たちから一日中いじられるところ、島田先生の場合は、その日の午前中にクラスの2、3人が話題にするだけで終わった。

大半の生徒同様、私も島田先生に何の関心もなかったが、進路指導の際に私が書いた第一志望の大学名を見るやいなや「今のままじゃ到底無理」と吐き捨てるように言い放ってから、私の盛大な怒りを買った。
今からすれば全くそのとおりだったし、ただ単に痛いところを突かれただけなのだが、その日から私は激しい怒りをガソリンに猛勉強した。

その甲斐あって3月、第一志望の大学に合格できた。
受験結果の報告に高校の職員室に出向くと、島田先生は教室にいると言われた。
人気のない3年生の校舎は、まだまだ底冷えするような寒さだった。
久しぶりの教室を覗くと、教卓でスーツ姿にマフラーを巻いた島田先生が一人何かを書いている。
「先生」と声をかけながら教室に入り、辺りを見渡してみると、教室中の机の上に卒業アルバムが開かれて置いてあった。
「ああ、それね、墨を乾かしてるから」
覗き込むと、卒業アルバムを開いた見返しの部分に、ちっとも上手くない毛筆で「夢へ!」と書かれている。
どうやらクラスの人数分、一冊一冊それを毛筆で書き込んでいるらしかった。
「先生、第一志望の◯◯大、受かりました」
教室の机を埋め尽くす卒業アルバムに気を取られながらそう報告すると、
「そうか! おめでとう!」
と思いがけないほど大きい声で言って、先生は3回手を叩いた。
ふと見ると、その顔は初めて見る笑顔で、喜びにほころんでいた。
ほころんでいたが、いつもの仏頂面が板につき過ぎて、顔の筋肉が追いついていない感じで、素敵な笑顔とは言い難かった。
戸惑う私にはおかまいなく、
「そうか、そうか、よく頑張ったなぁ」
と先生は嬉しそうに何度も頷いていた。

「夢へ!」なんてこっちが恥ずかしくなるような言葉も、下手っぴな毛筆も、強張ったような笑顔も、どれもちっともイケてなかったが、イケてないことがイケてることもあるんだなぁと思いながら、私は春一番の中を歩いて帰った。

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