ごめんね、
実は私のことが好きかどうかはあんまりどうでもよくて、
「好きだよ」って言うときのあなたがツボ過ぎる、
だってさ、
いつも必ず私の目を真っ直ぐ見るし、
使い古した毛布みたいにやさしい口調になるし、
「好」から始まるゆっくりした瞬きとか、
フッと消えていくみたいな小さな「よ」とか、
言い終わったあとにほんのちょっとだけ笑うとことか、
ねぇねぇ狙ってやってます？
私の全細胞がスタンディングオベーションですよ、
無限ループで聞いてたい、
だからついつい言わせたくて、
「私のこと好き？」ってベタなこと聞いちゃうんだよね、
我ながらウザいとは思うけど、
そんな私でも好き？？？

あまり認めたくはないが、良い思い出はそれほどなかった。
結果、こうして荷物をまとめ、彼の部屋から出て行こうとしている。
当然の成り行きだったが、そこそこの年月、当然の成り行きじゃないほうへ転ぶんじゃないかと薄い希望を抱き続けた私は、相当な愚か者だと思う。

彼は形の上では終わった恋をいつまでも終わらせることができないまま、上の空で私と過ごした。
彼自身、どうにかできるんじゃないかと薄い希望を抱き続けたものの、どうにもできなかったのかもしれない。

そんなわけで、私たちの時間は、幸福というには薄過ぎるものだったが、いつだったか彼に誘われて、部屋から見える小さな公園で花見をしたことがあった。
一本だけの頼りない桜の木の下のベンチに座り、煙草を吸いながら競馬新聞に見入る彼の髪に、桜の花びらが一枚二枚と積もるのを、私は飽きずに眺めていた。
私たちは黙ったまま、のどかな陽ざしの中で随分長いことそうしていた。

そんな時間もあったんだった。
あの桜は満開を迎えようとしている。
私は最後のダンボールに封をした。

話す
笑う
食べる
眠る

そういう
楽しげなものだけじゃなくてだな、

怒る
泣く
ヘコむ

そんなのも
君と
ずっと。

てっきり同じ空の下にいると思っていた。
たまにそうやって思い出していた。
元気でいるといいなぁと願い、元気でいるだろうと油断していた。

よく顔を合わせていた頃の彼は、生命力に満ち溢れていた。
そのエネルギーに温められるようで、私は彼が大好きだった。
あのとき片思いで終わって本当によかった。

こんなに早くそっちに行くなんて、そんなキャラじゃなかったじゃん。

ちょっとだけ空を見上げた。

誠に誠に遺憾だよ、
テンションだだ下がりだよ、
さっきまでの胸の高鳴りを返してくれよ、
また会えるなんてやっぱり運命かもとか喜んじゃったよ、
君のキラキラで何もかも一掃されるくらい浮かれてたのにさ、
「はじめまして」
じゃないんだよー、
前に会ったことあるの忘れちゃった？
俺は強烈に覚えてたのにさ、
君の「はじめまして」に運命感じてたのに、
今日の「はじめまして」で木っ端微塵だよ、
あー急に何もかもつまんねー、
なのに君はやっぱり可愛いのがちょっとムカつく