あまり認めたくはないが、良い思い出はそれほどなかった。
結果、こうして荷物をまとめ、彼の部屋から出て行こうとしている。
当然の成り行きだったが、そこそこの年月、当然の成り行きじゃないほうへ転ぶんじゃないかと薄い希望を抱き続けた私は、相当な愚か者だと思う。

彼は形の上では終わった恋をいつまでも終わらせることができないまま、上の空で私と過ごした。
彼自身、どうにかできるんじゃないかと薄い希望を抱き続けたものの、どうにもできなかったのかもしれない。

そんなわけで、私たちの時間は、幸福というには薄過ぎるものだったが、いつだったか彼に誘われて、部屋から見える小さな公園で花見をしたことがあった。
一本だけの頼りない桜の木の下のベンチに座り、煙草を吸いながら競馬新聞に見入る彼の髪に、桜の花びらが一枚二枚と積もるのを、私は飽きずに眺めていた。
私たちは黙ったまま、のどかな陽ざしの中で随分長いことそうしていた。

そんな時間もあったんだった。
あの桜は満開を迎えようとしている。
私は最後のダンボールに封をした。

4/4/2025, 4:28:06 PM