ひさしぶりに、本を読んだ。
本を読めたら何でも良かったから、なんか最近人気の恋愛小説にした。恋愛小説は大っ嫌いだけど、仕事帰りで頭も働いてなかったし、もう買ってしまったから後悔しても遅い。
家に帰って、ご飯とお風呂と寝る準備を済ませて、帰りに買った本をパラパラ読み始めた。
病弱でとある病院に入院していた女子高校生が、同じ病院に入院している男子大学生に恋をするという、簡単に説明するとこんな感じ。
そこまで長くはなく、1時間くらいで読み終わった。
最後は、ハッピーエンド。恋愛小説のハッピーエンドって言ったら、結果を詳しく書く必要はないだろう。
いいなぁ。私は情けなく、そう呟く。
私のハッピーエンドは、いつ来るのやら。
好きじゃないのに、やらなければいけない事って沢山ある。
大人になればなるほど、増えてくる。
嫌いなことも、やらなければいけない。
でも、嫌いを超えた先に、好きがあったら。
好きじゃないのに、やらなければいけない事も、愛せるかも。
「ところにより雨、かぁ」
気だるそうな、欠伸混じりの声。
「お出かけの予定だったのに、まさか雨が降るとは」
昨日までは、今日は快晴だと天気予報では言っていたのに。窓を見ると、快晴とは言い難い灰色の雲が青い空を隠していた。家の中は暖房が着いているから暖かいけど、多分外は相当寒い。最高気温7度とか美人な天気予報のお姉さんが言ってた気がする。
「雨降るとか言われたら、出かける気になれないじゃない~」
ボサボサな栗色の髪をいじりながら、貴方はそう言った。面倒くさがりの貴方の事だから、私はこうなることを何となく分かっていた。
「じゃあ今日は家にいる?」
「賛成~!ゲームでもしよ!」
私は、雨でも出かけたかったけれど、しょうがない。
でも、貴方と一緒にいられれば、どんなことをしても、どこに行っても、楽しいことには変わりないから。
いろんなゲームソフトを貴方が取り出した時、ポツポツと優しく雨が降り出した。
誰しも、特別な存在というものがいる。
じゃあ、私は誰にとって特別な存在なの?
私は、ステージの上にいた。
5年前の記憶。とあるコンサートの日に、ソロを任されて、私はそのソロで人を感動させたかった。
だから、沢山練習を重ねて、自分の身も心もズタズタにした。
だからか、本番の日、耳が聞こえなくなった。
急な事だった。今どこを吹いているのか、何を吹いているのかが分からなくなった。
でも、私は今その瞬間にいる。
きっと夢なのだろう。だって、私はもうステージの上に立つことなんてないんだから。
これが夢なら、夢が覚める前に、このソロを吹ききってみせる。