最後、人間に会ったのはいつだっけ。
社会不適合者の私は、いつしか人と関わることを辞めていた。
私の一言が人を傷つけるなら、私の存在が誰かの足を引っ張るなら、それなら私は居ないことになってもいい。
そんなことを考えていたら、部屋の片隅で永遠の眠りについていました。
逆さまの気持ち。
この気持ちを伝えたいのに、いつも言葉が逆さまになるんです。
眠れないほど、私はあなたに恋をしていた。
世間からはおかしな目でみられるような恋愛だけど、それでも好きなのは変わらない。
ただ、産まれた環境が一緒だっただけ。
最初は、自分自身がおかしいと思っていたけど、違うんだ。
あなたがこの世界から消えて、私はひとりぼっちになった。
その日から、私は眠れなくなった。
眠れても、夢の中で貴方が出てきて、目覚めた瞬間に涙が止まらなくなる。その度に痛感する。
あぁ、本当に私は、貴方を愛していたんだって。
夢を追いかけている人、現実と向き合ってる人、果たしてどっちの方が多いんだろうか。
夢と現実のギャップに打ちのめされ、ずっと上を向いていた首が痛くなって、ふと下を向く。
下には誰もいない。その変わり、周りには私のように夢を見るのを諦めた人達ばかり。
輝いている人達が、羨ましい。
努力も、才能も、運も無かった私たちは、大きく息を吐いて、今を生きることを決意した。
本当にあるかも分からない夢を追いかけるのは、もう疲れた。
一緒に花火を見た思い出、その日に買ったたこ焼きを地面に落としてしまって、貴方に笑われたんだっけ。
その後、一緒にくじを引いて、2人揃って残念賞を引いて、もらった駄菓子をゆっくり噛み締めながら、夜の九時までくだらない話を繰り広げたんだっけ。
懐かしいよね。大人になっても、そうやってふざけて毎日を過ごすもんだと思ってた。
気がつけば大人になってた私。小さい頃からなんとなく抱えてた夢を叶え、色んな人に慕われて、幸せなはずなのに、何かが足りない気がする。
それで、気づいたんだ。最近、忙しすぎて貴方に会いに行ってないって。
貴方の好きな、月下美人の花を抱えて、私は山の中にあるあなたのお墓に向かった。
「久しぶり。あのね、髪、切ったんだ。長い髪、私には似合わないって、あなたがよく言うからさ」
そう言って、私はお墓の前に座った。なんだか慣れない短い髪を触って、貴方のお墓にゆっくり月下美人を飾った。
「急に、ごめんね。なんか、寂しくなっちゃって。ほら、私自分から話しかけるのとか、苦手だし。貴方みたいに、私に根気よく話しかけてくれる人なんて、なかなかいないんだよ」
小さい頃から、孤立していた私。でも、私が見ている世界はどこかキラキラしていて、それを伝えるには子供だから全然上手くなかったけど、貴方だけは私の話を聞いてくれた。
そんな貴方は、原因不明の病気で、私の目の前でこの世を去ってしまった。その時、貴方はなんて言っていたっけ?
「……ごめん。もう行くね。あ、明日ね、今年最後の……コンサートがあるんだ。よかったらさ……来てくれると、嬉しいな」
それじゃ、と私は立ち上がりながら、次の言葉を言いかけると、頭の中で懐かしい声が反響した。
『さよならなんて言わないで』
あぁ、思い出した。あなたは、あの時……
「……絶対、会おうね。約束だからね!」
そう叫んだ瞬間、冷たい風が優しく私を包み込んだ。親指にできたタコや唇の裏についた歯の跡が、今更ジンジンと痛んだ。
誰も認めてくれなかったこの痛みは、今では誰もが尊敬する痛みになっている。
私は、あの時みたいに下手くそに笑って、貴方に大きく手を振った。