親友が、亡くなった。
原因は、心臓病。
小さい頃から一緒で、手を繋いで同じ場所に行って、同じものを食べて、同じものを一緒につきつめて。
こんなことになるだなんて、思いもしなかった。
どんな姿でもいい。また会いたい。手を繋ぎたい。
またいつか、巡り会えたなら、私は思いっきり、あなたの骨が折れるくらい強く抱きしめるんだ。
何も不自由なく過ごせてる今。
3年前、大きなホールでたくさんの仲間たちと音を重ねあったあの時期が、とても懐かしい。
またあの奇跡を、もう一度体験できたなら……。
黄昏時、いつもの公園でベンチに座りながら、夕日を眺めている。
木と木の間から、たくさんの光が漏れだしている。
もうすぐ、今日が終わる。
今日の終わりは、明日の始まり。
でも、今日は帰りたくないや。
小学生の頃に、一目惚れをして、それからずっと憧れていたクラリネット。
ほかの管楽器と比べれば、キラキラしてる部分は少ないけど、それでも私はクラリネットの見た目も、音も大好きだった。
だから、吹奏楽に入って、クラリネットを始めた。
だけど、いつも怒られるのは、私だけ。
音が小さい、指が回ってない、高音がでてない。
挙句の果てには、「今まで何やってたんだ」とまで言われてしまった。
『才能がないんだ』『私には、あんな美しい音は奏でることは出来ない』『もう、辞めたい』
そんなことばかり考えていた。
そして、私は心の奥底でこう思っていた。
『きっと明日も、怒られるかもしれない』
なんて、そう思いながら、半泣きで部活に行っていた時もあった。
でも、変わり始めた時期があった。先生に、いい音が鳴るようになったねと、言われた。
嬉しかった。自信も取り戻せた。
だから、今の自分がいる。
今ももちろん下手くそだし、でも、まだ少ないけど、ソロを任せられるようにもなってきた。
その時は、観客席の向こう側まで見て、ソロを吹くんだ。
クラリネットの美しい音色を、聞いてもらうために。
『きっと明日も、クラリネットを好きになり始める人がいることを、願ってる』
静寂に包まれた部屋。
机の上には、ぽつんと離婚届が置かれているだけ。
何が悪かったのか、何も教えてくれぬまま、彼は去っていった。
唯一わかっているのは、彼は昔から好きだった女性と、同じ部署にいること。
もう分かってる。私には何も出来ない。
私はただ、静まり返ったこの部屋で、泣くしかできなかった。