友達から教えて貰った。
明日で世界は終わるらしい。
淡々と告げられた現実に、少し笑ってしまった。
「これからどうしようか」
学校も休み、お店もやってない。
まあいっか。
「今日はもう寝よう。
何をやるかは明日決めよっか。」
「そうだね。じゃあ、おやすみ。」
次の朝が来ることは無かった。
「明日?今日、世界が終わってしまったよ。」
暗い、何も見えない。
まるで墨汁のボトルのの中に閉じ込められたみたいだ。
こんな世界に来ると、ひとつ思うことがある。
ああ、ここは夢の世界なんだな、と。
最近、所謂"明晰夢"というものを見る。
そして、この暗い世界に迷い込んだ時に、もう1つ怒ることがある。
ある人に会うのだ。
その人は知り合いのような、はたまた他人のような、よく分からない人だ。
元々この夢はこの黒い世界に閉じ込められるだけで、はっきり言うと怖かったのだが、
この人が現れてからは、なんだか夢を見るのが楽しくなった。
だがこの人、一言も話さないのだ。
それもいいかなと最初は思っていたが、日数が経つにつれ、少しづつ苦痛になってきた。
何か話してくれないだろうか。
せめて名前だけでも…
そう思いながら俺は今日も眠る。
あの人に会うために。
「あの人に出逢ってから、俺は眠るのが楽しくなった。」
ポロロン、ポロン───
最近、気になる音楽がある。
単調な音楽だが、鼻歌検索にも引っかからなかった。
ピアノと…そうだ、ハープだ。
そのふたつのパートがある曲。
どうも"海"に関係があるらしい。
最初に聞いたのは、確か叔父さんの家から近い海岸で。
次に聞いたのは、友達といった海水浴場。
1番最近は、家から数分の海で。
全部海から聞こえてくる。
しかも、耳を澄まさないとよく聞こえない。
なんだか「私をしっかり感じて」と僕に訴えかけてくるようだ。
だから今日も僕は海に旋律を聞きに行く。
なんだか、聞かないといけない感じがする。
おいで、
二人だけの秘密だよ。
そう約束したのは僕が保育園児だった頃。
だけど、誰と、どんな約束を交わしたのかは覚えてない。
なんで今更こんなこと思い出したのか?
それは、今僕の前に立っている人…いや多分人では無いな。
コイツのせいだ。
「だから〜、覚えてない?
君が、えっと、ほいくえん、だっけ?
それくらいの時に"ヒミツ"って誰かに言われなかった?」
「あったけど、それ以外の情報全部忘れた。
てか、誰?」
「あ、私?
どうも〜!狐の葉月です。
じゃなくて!
忘れてんのかぁ…」
「うん、忘れた。
で、何?」
「あれ、私。
ほんで内容は、"おっきくなったら結婚しよう"やったな。」
は?
「何言ってんの?嫌だよ。」
「そんなこと言わずに、ねっ!
私を助けると思ってさ!
大丈夫、男同士でも最近狐世界OKだから!」
え、あ、うん?
「え、お前、お、男なの?」
「え、うん。
あ、女にもなれるよ!」
…ま、いっか。
「…まあ、子供とはいえ約束したものは約束か。
いいよ。ついてってあげる。
どうせ、これからやることないしね。」
面白そうだし。
「ありがとう!
じゃあ、早速狐の山にレッツゴー!」
「え、ちょ、ま、うわああぁぁぁ〜」
「優しくしないで!」
そう、彼女に言われた。
だって君が優しい人が好きって言っていたから、僕は頑張って優しい人を演じていたのに。
「僕のどこがダメだったの?
直すよ、君がそれを望むなら」
僕はできる限り優しい声色でそう言った。
「だって、あなたは私を庇って車に…」
ああ、そうか。
僕は今さっき彼女を、結花を庇って車に轢かれたのか。
そんなことを思い出していると、僕の頬にポタポタと水滴が落ちてきた。
…涙だ。結花の。
「泣かないでよ。最後ぐらい笑って欲しいな。結花には笑顔が似合うんだから…。」
「だって、どんどん心音が弱くなっていってっ」
ああ、こんな上っ面な僕よりも、君の方が十分と優しいのに。
「結花は優しいね。」
「あなたは酷いわね。ずっと私を騙してきて。」
えっ?
「ごめんね。私があんなこと言っちゃったせいでずっと"優しい人"を演じていたんだ。
でもね、そうじゃないあなた、素のあなたも大好きだった。」
「…バレてたんだ。ごめん」
「いいの。
それと、ごめんを言うのは、元気な姿になってから言って欲しいわ!」
「わかったよ。君の好きなケーキもプラスでつけよう。」
「……約束よ。」