約束
「約束したのになんで守ってくれないの?」
そんな言葉をかけられるのが嫌いだ
人はみんな勝手に期待して、勝手に失望する
自分には約束した記憶などないのに勝手に相手が約束した気になる
本当に人間関係が嫌になりそう
でも、、、そう言ってる自分も同じことをしてる
人ってそういう生き物なんだ
ひらり
『桜の花びらが落ちる速度は秒速2メートル
そしてその桜の花びらは稀に、時をかける』
「神父様、この戦争が終わったらみんなや、、」
私は言葉に詰まった
だが続く言葉を紡ぐ
「私の娘と一緒に平和な世界を作ってください」
私はその世界には立ち会えないかもしれないから
「はい、偉大な戦士様何があったとしても、その願いは叶えてみせます」
偉大な戦士様、その呼ばれ方にももう慣れた
みんなが私のことをそう言って称えてくれる
小さい頃から剣の才能を発揮した私は14歳になると悪魔ドラゴンを剣1つで叩き斬った
そのときから称えられるようになった
でも最近では『人類最期の希望』とも呼ばれる
そう呼ばれる理由はラグナロクと呼ばれる亜人戦争が始まったからだろう
「神父様もう一つだけお願いがあるのですが良いですか」
私はある思いつきからそう口を開いた
「はい、いいでしょう」
神父様は優しく包み込むような声で言ってくれた
「神父様の教会の中庭に桜の木を植えてもいいでしょうか」
「何のためですか」
「ラグナロクのその後の世界のために、この美しい世界の平和を願って」
「いいでしょう、この大地には神様のご加護があります」
「ありがとうございます」
神父様の許可がもらえホッとする
「戦士様、あなたには神様のご加護がついております」
その言葉が救いとなる
その後私は娘と一緒に桜の木を植えた
戦争が始まり10年、今終わろうとしていた
亜人の王を目の前に私は剣先を向けていた
草原の上に私たちは立っている
私が立っている手前側には何にもない綺麗な緑の草原、亜人の王が立っている奥側は何にもない枯れた灰色の草原が広がっている
まるでここを境に時間が分離しているようだ
「ラグナロクをここで終わりにしよう!」
私は宣言した
灰色が迫ってくるのを感じた、一瞬だった
私は胸から鮮血を飛ばしていた
終わった、人間の負けだ
私は背中から倒れそうになる
その時、後ろから大きな風が倒れかける私の体を起こした
その風に乗り桜の花びらが一緒に吹雪いた
桜の木など周りになかったはず、、、
桜の花びらが私の体を優しく包む
「なっ何をしたっ?!」
亜人の王は狼狽していた
自分でもわからない、胸の傷がなかった
周りに血も飛び散っていなかった
まるで私だけ時間が戻ったようだった
このチャンスを逃してはいけない、私は未だに理解不能という顔をしている亜人の王の首に剣を突き抜いた
なんの言葉も発せず亜人の王は灰となり消えた
勝った、人間の勝利だ
私は先ほどの桜の花びらの謎を解明するために振り向いた、そこには何もなかった
そして気づけば力なく倒れていた
緑と灰色のちょうど変わり目の境に私は赤を添えていた
私は綺麗な群青の空に手を伸ばし願った
「美しい世界を、あとは任せた」
誰かしら?
今日、僕は久しぶりにおばあちゃんに会いに行く
親から「おばあちゃん今入院してて、もう近いかもしれない」と連絡が来たからだ
気づけば90歳を超えている、会わなくともいつ逝ってもおかしくないことは容易に想像できた
特に何の覚悟もせずに僕は会いに行った、それがいけなかったと後で後悔することなど考えずに
会って最初の一言だった、おばあちゃんは僕の目を見てはっきり言った
「誰かしら?」
覚悟をしなかった後悔もあったがそれよりも『もっといっぱい会いに行ってれば良かった』という後悔が大きかった
こうなることを想像するのは容易じゃなかったようだ
芽吹きのとき
「これはなーに?」
「これはね、大きい大きいお花さんの種だよ」
「なんで土に埋めるの?」
「この大地には神のご加護があるのよ」
「神様ってどんな人?」
「寛大で神々しい方、慈愛に満ちた方、だからこのラグナロクも終わらせてくれる」
そしてまだ幼かった私は母と一緒に手を合わせて祈った
「この災害で多くの命が失われた」
16歳になった私は辛く苦しい亜人戦争をなんとか生き残った
そして神父さまのありがたい言葉を教会の端の席に座り傾聴していた
「ラグナロクは去った!だが多くを失った、ここにいる者たちみな悲しみを胸に抱いているだろう」
神父様は少し沈黙した
神父様にも何か思うものがあったように私には見えた
みんな静かに神父様の言葉を一言一言聞き漏らさないようにしている
何十年ぶりという静寂がこの空間を包みこんでくれる
「これから、1からみんなで再始動しましょう!」
神父様の言葉を聞き終わり私は外の空気を吸うためにまだ戦争の痕跡が残る風景を眺めながら大きな教会のお庭に出てきた
「お母様のことはご愁傷さまでした」
そしたら後ろから声がした
振り向けば私に話し掛けてるのがわかった
なんせ私しかその場にいなかったから
「ありがとうございます」
「お母様は偉大な戦士だ、お母様のおかげでこの戦争という名の災害は終焉を迎えた」
私のお母さんはみんなから称えられる戦士だった
私も尊敬している
「ちょっと1人にさせてください」
母の話が出るとまだ思いが溢れそうになってしまう
「すみません、またの機会に」
ごめんね、そう心のなかで謝る
そして去っていってくれたとおもったが
「あの!私はあなたのことを未来の希望だと思ってます!」
それだけ告げて走って行ってしまった
教会の中庭で私は未だに1人哀しみに耽っていた
「これは、、、」
私は見つけた、未来への希望を
大きな桜の木となる小さな子どもが芽吹いていた
「これからお互いに頑張って立て直そう、母が命を惜しんででも守った美しい世界を」
あの日の温もり
"ピー"
ドアが閉まります次の電車にお乗りください
"バタン"プシュー"
"ガタンガタン、ガタンガタン"
これで私は駅のホームに着いてから3本目の電車を見送った
「はぁはぁはぁ」
一歩たりとも動いてなくても息が切れてしまう
恐怖で体が震えてる、握ってる手提げかばんの持ち手がシワだらけになってしまっている
東京の朝の電車は人が多い、人間恐怖症の私が来て良い場所ではなかったと後悔する
「あっ」
思い出す、固まっていた手を緩めてかばんの中から小さなお守りを取り出す
「ほらこれ、あんたが大好きなワンちゃんのぬいぐるみ」
「なんで?」
「なんでってなによ、上京祝いよ」
私が今日から住む新しい一人暮らしの家の玄関で母親が可愛らしい小さなワンちゃんのぬいぐるみを差し出してきた
「うん」
私はお返しに両手を差し出してぬいぐるみを迎い入れた
母親はその手の中にぬいぐるみを置いた
「あっ」
温もりを感じた、母親の愛を感じた
「じゃあもう行くからね」
「あっありがとう、頑張るね」
「うん、、」
母はすぐに顔を背ける
そして出て行ってしまった
何かを言おうとして何かの感情に阻まれたように見えた
『いつでも帰ってきていいからね』
去っていったあとにそういったLINEが母から届いていた
"テレレン"テレレン"
電車がが来ます白線の内側まで下がってください
"プシュー"
「よしっ!」
私はお守りのぬいぐるみの温もりに背中を押されて電車の中へと入った