眠りにつく前に
「私、腕枕ってあんまり好きじゃな――」
「あ、ごめん。してみたかったんだけど、イヤ?」
「ううん、そうじゃなくて。子供の頃、父親に頭乗せなさいって言われてしっくりこなくて」
「今は、どう?」
「――いい」
懐かしく思うこと
金曜、23時。
仕事で大失敗した帰り道。バスを降りたら涙が堪えきれなくなった。
アパートで彼が私の帰りを待っていた。
「どうした?」
「――向いてない……もう辞めたい」
「とりあえず、コンビニ行こ? なんでも買ってあげる」
コンビニスイーツをこれでもかと、彼はどんどんカゴに入れた。
一緒に食べたベイクドチーズケーキ。
「大丈夫。向いてるよ。たくさん食べて元気出して」
「こんな時間にめっちゃ太るじゃん」
2人で笑い合った。
* * *
仕事帰り、コンビニに寄った。
『片手で食べられるチーズケーキ、5年ぶりに復活!』
思わず買った。
ひと口。
あの夜のことを思い出した。
仕事はできるようになったのに目が途端に熱くなる。
――懐かしい……ひとりで思いたくなかった。
もう一つの物語
「じゃ、また来月に来るね」
「うん」
遠距離の彼を見送る。
改札でさよならするのは嫌で、新幹線ホームの入場券ボタンを押した。
手をつないで上がる長いエスカレーター。
発車時刻を待つ新幹線が見えた。
「じゃぁね」
「待ってる」
新幹線に乗る彼の手を離そうとしたら、彼に引っ張られて、思わず私も乗ってしまった。
「やっぱり嫌だ。ユミ、すぐ仕事辞めてオレと一緒に……」
本当に紡ぎたかった……その先の物語。
暗がりの中で
「ずっと一緒にいよう」
「うん」
花火大会の帰り道、約束した。
次の年、その次の年も一緒に見た花火。
4回目。私はベッドの側に座って、大きな窓から一緒に見た。
「……来年も見れるかな」
「きっと見られるよ……」
初めて一緒に見た場所にひとり。
見上げた花火は滲んで見えた。
「あったか〜い」
駅のホーム。自動販売機のボタンを押した。
「オレはレモンティーだな。ユミは?」
「私はホットココア」
熱いぐらいのペットボトルのフタをあけ、ゴクッとひと口飲んだ。
雪が降ってきた。
「寒いね」
彼がぴったりくっついて来た。ほのかに香る紅茶の香り。見上げて笑いあった。
風が強く吹いた。彼の制服のネクタイに雪がついて、手袋をしたままの手で払ってあげた。
「あ、ありがとう」
「ダウン、前、閉めたら?」
「だな」
寒いはずなのに、温かかった。
――ずっと続くと思っていた。
「何がいい?」
「うーん、私はココア」
「じゃ、オレはコーヒー」
「あ、やっぱりレモンティーにする……」
思い出したくなった……冬の香り。