あひる

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11/2/2024, 4:18:33 PM

眠りにつく前に



「私、腕枕ってあんまり好きじゃな――」

「あ、ごめん。してみたかったんだけど、イヤ?」

「ううん、そうじゃなくて。子供の頃、父親に頭乗せなさいって言われてしっくりこなくて」

「今は、どう?」

「――いい」
 
 
 
 

10/30/2024, 4:12:50 PM

懐かしく思うこと


 金曜、23時。

 仕事で大失敗した帰り道。バスを降りたら涙が堪えきれなくなった。
 アパートで彼が私の帰りを待っていた。
 
「どうした?」
「――向いてない……もう辞めたい」
「とりあえず、コンビニ行こ? なんでも買ってあげる」

 コンビニスイーツをこれでもかと、彼はどんどんカゴに入れた。

 一緒に食べたベイクドチーズケーキ。
 
「大丈夫。向いてるよ。たくさん食べて元気出して」
「こんな時間にめっちゃ太るじゃん」

 2人で笑い合った。

 * * *
 
 仕事帰り、コンビニに寄った。

『片手で食べられるチーズケーキ、5年ぶりに復活!』

 思わず買った。


 ひと口。
 あの夜のことを思い出した。
 仕事はできるようになったのに目が途端に熱くなる。
 
 ――懐かしい……ひとりで思いたくなかった。

10/29/2024, 3:12:11 PM

もう一つの物語

 
 
「じゃ、また来月に来るね」
「うん」
 

 遠距離の彼を見送る。
 改札でさよならするのは嫌で、新幹線ホームの入場券ボタンを押した。


 手をつないで上がる長いエスカレーター。
 発車時刻を待つ新幹線が見えた。


「じゃぁね」
「待ってる」
 

 新幹線に乗る彼の手を離そうとしたら、彼に引っ張られて、思わず私も乗ってしまった。
 

「やっぱり嫌だ。ユミ、すぐ仕事辞めてオレと一緒に……」
 

 本当に紡ぎたかった……その先の物語。
 

 

10/28/2024, 12:02:04 PM

暗がりの中で


「ずっと一緒にいよう」
「うん」
 

 花火大会の帰り道、約束した。


 次の年、その次の年も一緒に見た花火。


 4回目。私はベッドの側に座って、大きな窓から一緒に見た。


「……来年も見れるかな」
「きっと見られるよ……」


 初めて一緒に見た場所にひとり。

 見上げた花火は滲んで見えた。
 


               

10/27/2024, 12:38:54 PM


「あったか〜い」
 
 駅のホーム。自動販売機のボタンを押した。
 
「オレはレモンティーだな。ユミは?」
「私はホットココア」
 
 熱いぐらいのペットボトルのフタをあけ、ゴクッとひと口飲んだ。
 
 雪が降ってきた。
 
「寒いね」
 
 彼がぴったりくっついて来た。ほのかに香る紅茶の香り。見上げて笑いあった。
 
 風が強く吹いた。彼の制服のネクタイに雪がついて、手袋をしたままの手で払ってあげた。
 
「あ、ありがとう」
「ダウン、前、閉めたら?」
「だな」

 寒いはずなのに、温かかった。

 ――ずっと続くと思っていた。

  


「何がいい?」
「うーん、私はココア」
「じゃ、オレはコーヒー」
「あ、やっぱりレモンティーにする……」
 
 思い出したくなった……冬の香り。
 
 

 

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