はなればなれ
終業式の帰り、彼とミスドに寄った。
「4月からオレたちも受験生か」
「お互い東京の大学に行けるようにがんばろうね」
いつものように他愛もない話をして、家路についた。
家に着くなりスマホが鳴った。持っていたカバンからスマホを取り出しタップする。私は制服のままベッドに腰を下ろした。
「さっき言えなかったんだけど……」
言いかけて珍しく彼が黙っている。
「どうかした?」
「……実はさ、父親の転勤が決まって4月から東京なんだ」
「え」
ここから東京までは新幹線で1時間半。
「1年、離れちゃうけど」
「そうだね。でも私も東京の大学に入ればいいんだし」
「良かった。同じ大学に入れればいいよな」
「うん。がんばろうね」
直接会うことはできなかったけど、私たちは頻繁にビデオ通話で話した。
それから半年がたち秋も深まる頃。
「実はさ、大学決まったんだ」
決まったというわりには浮かない顔の彼に不安がよぎる。
「良かったじゃん。おめでとう!」
「それが、言いにくいんだけど」
「え、どうして?」
「体育大に行くことにしたんだ」
さすがに同じ大学は無理だなって思った。
本当に私たちは、はなればなれになった。
秋風
バイクの後ろに乗せてもらって紅葉を見に来た。
彼に初めて連れてきてもらったそこは、縁結びのお寺だった。
「知ってたの?」
「いや、まぁ、うん。知ってたかな」
2人で絵馬に願いを込めた。
帰りに参道入り口のお豆腐屋さんに寄った。
お店は混んでいて外で食べた。
頬にあたる秋風が心地良い。
黄金色の三角の形をした油あげは、カリカリでふわふわだった。
「おいしい!」
「良かった。また来年も来よう」
でも、約束は4回でストップした。
久しぶりにひとりで来てみた。
同じ景色のはずなのに、色のない風は冷たかった。
また会いましょう
「じゃ、またね」
「うん。また会いに来る」
350km先に向かう新幹線のドアが閉まった。
次に会う約束をして。
約束は前倒しになることもあって。
上手くいっていると思っていた。
1年が過ぎた暖かな春の午後。
通知音がした。
『ごめん』から始まるライン。
嫌な予感がした。
『いつか……また……』
もう、その日は来ないんだなって思った。
スリル
ふたりでスリルを味わうのなら
怖いことは半分に
楽しいことはもっと楽しい
飛べない翼
「いてっ」
背中に走った痛みに思わずその場にうずくまった。
あと少しで飛べたのに。
後ろからザリザリっと足音がして、黒の革靴が視界に入った。
「何すんだよ!」
「まだ早いですよ、飛ぶのは」
見ると男の手には、翼みたいなものがあった。
「は? 何言ってるんだよ、関係ねぇだろ、アンタに」
「ありますよ。担任ですから」
「意味わかんねぇんだけど。背中痛いし、ていうか、何それ?」
「あぁ、これですか。キミの翼です。飛ばないように、もぎましたから――」
背中をさすってきて「痛いですか?」なんて聞いてくる。
「本来、死ぬ時しか見えないんですよ、この翼は……君は」
――あぁ、そういうことか。
「がんばりすぎです。17でこんなに立派な翼にならなくていいんです。立てますか?」
「…………」
「おんぶしますか?」
――はぁ? 何言ってるんだよ、この先生……。
「……先生って、一体……何者?」
揺れる背中で聞いた。
あったかかった。