あひる

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12/7/2024, 3:18:07 PM

部屋の片隅で

「久しぶり。元気だった?」
 半年前に別れた彼の声に心がざわめく。
 気づかれないように冷静を装う。
「え、元気だよ。番号変えた?」
「え……変えてないよ……そっか……ごめん、俺勝手だよな」
「いや、そうじゃなくて、」
「いや、いいんだ。そんなもんだよね。俺の方が別れたこと、すごく後悔してたんだな」
 違う、そうじゃない。
 番号を入れたままにしたら、かけてしまいそうで縋りたくなくて消去した。
 かかってきたら、その時考えよう。そう思って部屋の片隅には、まだ彼の荷物がある。
「この気持ち伝えないと俺、一生後悔すると思って電話かけたんだ。でも、もうユミは……」
 350キロは思っているより遠い。
 そうじゃないと言いたいけど……言えない。
 

 半年が過ぎた。
 結局、あれから電話がかかってくることはない。
 部屋の片隅で積まれた3つの段ボールが問いかけてくる。
 ――本当に後悔するのは……。
 

12/6/2024, 3:45:10 PM


 逆さま

 
 うちには逆さまの住人がいる。
 今も3人から4人、冷たい環境に置かれている。


「使い切っちゃうね」
 彼がそのうちの赤い子を選んだ。オムライスによく合う。
 お尻の方を持ちフリフリすると「あっ!」と叫んだ。
「ふっ」
 思わず笑ってしまった。
 フタが開いて、飛びちった赤い液体。
「ごめん」
 いつもクールな顔なのに、赤くなっている彼に思わず笑ってしまった。
「拭けば大丈夫」

 ――ただ一緒にいられるだけで良かった。

12/6/2024, 3:27:48 AM

        午前1時の緊張。

 
 やっと隣で規則正しい寝息を立て始めた彼女を起こさないように、そっとベッドを抜け出した。
 
 ワンルーム。
 音を立てずに暗闇の中、机の引き出しを開ける。
 あらかじめ用意しておいた糸とペンを手にして、彼女のブランケットを少しだけめくる。
 その細い薬指に糸を巻き、ペン先を糸にあてた。
 すぐブランケットを戻し、糸とペンを引き出しにしまう。

「……ん? どうかした?」

 ――やばっ。

 後ろから彼女の声がした。
「あ、トイレ行ってた」
 ごめん、ごめんと言いながらベッドに入る。
「寒くない?」
 寝ぼけた声で彼女が言う。
「大丈夫だよ、おやすみ……」
「ん」

 ――びっくりした。

 彼女が再び規則正しい寝息を立て始めるまで、オレに寄せてきたその体を抱きしめた。
 気づかれただろうか? 
 まだ心臓がドキドキしている。


 お題:眠れないほど

11/16/2024, 12:21:07 PM

はなればなれ


 終業式の帰り、彼とミスドに寄った。


「4月からオレたちも受験生か」
「お互い東京の大学に行けるようにがんばろうね」


 いつものように他愛もない話をして、家路についた。
 家に着くなりスマホが鳴った。持っていたカバンからスマホを取り出しタップする。私は制服のままベッドに腰を下ろした。

 
「さっき言えなかったんだけど……」
 言いかけて珍しく彼が黙っている。
「どうかした?」
「……実はさ、父親の転勤が決まって4月から東京なんだ」
「え」
 
 ここから東京までは新幹線で1時間半。
 
「1年、離れちゃうけど」
「そうだね。でも私も東京の大学に入ればいいんだし」
「良かった。同じ大学に入れればいいよな」
「うん。がんばろうね」
 
 直接会うことはできなかったけど、私たちは頻繁にビデオ通話で話した。
 それから半年がたち秋も深まる頃。
 
「実はさ、大学決まったんだ」
 決まったというわりには浮かない顔の彼に不安がよぎる。
「良かったじゃん。おめでとう!」
「それが、言いにくいんだけど」
「え、どうして?」
「体育大に行くことにしたんだ」

 さすがに同じ大学は無理だなって思った。
 本当に私たちは、はなればなれになった。
 
 
 
 

11/14/2024, 11:44:58 PM

 秋風


 バイクの後ろに乗せてもらって紅葉を見に来た。
 彼に初めて連れてきてもらったそこは、縁結びのお寺だった。

「知ってたの?」
「いや、まぁ、うん。知ってたかな」
 
 2人で絵馬に願いを込めた。

 帰りに参道入り口のお豆腐屋さんに寄った。
 お店は混んでいて外で食べた。
 頬にあたる秋風が心地良い。
 黄金色の三角の形をした油あげは、カリカリでふわふわだった。
 
「おいしい!」
「良かった。また来年も来よう」

 でも、約束は4回でストップした。
 
 久しぶりにひとりで来てみた。
 同じ景色のはずなのに、色のない風は冷たかった。
 
 

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