あひる

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11/16/2024, 12:21:07 PM

はなればなれ


 終業式の帰り、彼とミスドに寄った。


「4月からオレたちも受験生か」
「お互い東京の大学に行けるようにがんばろうね」


 いつものように他愛もない話をして、家路についた。
 家に着くなりスマホが鳴った。持っていたカバンからスマホを取り出しタップする。私は制服のままベッドに腰を下ろした。

 
「さっき言えなかったんだけど……」
 言いかけて珍しく彼が黙っている。
「どうかした?」
「……実はさ、父親の転勤が決まって4月から東京なんだ」
「え」
 
 ここから東京までは新幹線で1時間半。
 
「1年、離れちゃうけど」
「そうだね。でも私も東京の大学に入ればいいんだし」
「良かった。同じ大学に入れればいいよな」
「うん。がんばろうね」
 
 直接会うことはできなかったけど、私たちは頻繁にビデオ通話で話した。
 それから半年がたち秋も深まる頃。
 
「実はさ、大学決まったんだ」
 決まったというわりには浮かない顔の彼に不安がよぎる。
「良かったじゃん。おめでとう!」
「それが、言いにくいんだけど」
「え、どうして?」
「体育大に行くことにしたんだ」

 さすがに同じ大学は無理だなって思った。
 本当に私たちは、はなればなれになった。
 
 
 
 

11/14/2024, 11:44:58 PM

 秋風


 バイクの後ろに乗せてもらって紅葉を見に来た。
 彼に初めて連れてきてもらったそこは、縁結びのお寺だった。

「知ってたの?」
「いや、まぁ、うん。知ってたかな」
 
 2人で絵馬に願いを込めた。

 帰りに参道入り口のお豆腐屋さんに寄った。
 お店は混んでいて外で食べた。
 頬にあたる秋風が心地良い。
 黄金色の三角の形をした油あげは、カリカリでふわふわだった。
 
「おいしい!」
「良かった。また来年も来よう」

 でも、約束は4回でストップした。
 
 久しぶりにひとりで来てみた。
 同じ景色のはずなのに、色のない風は冷たかった。
 
 

11/13/2024, 12:47:56 PM

また会いましょう


「じゃ、またね」
「うん。また会いに来る」

 350km先に向かう新幹線のドアが閉まった。
 次に会う約束をして。
 
 約束は前倒しになることもあって。
 上手くいっていると思っていた。
 
 
 1年が過ぎた暖かな春の午後。
 通知音がした。
 『ごめん』から始まるライン。
 嫌な予感がした。

 『いつか……また……』
 
 もう、その日は来ないんだなって思った。
 

11/12/2024, 1:14:00 PM

スリル

 
 ふたりでスリルを味わうのなら

   怖いことは半分に 

 楽しいことはもっと楽しい
 

11/11/2024, 12:06:50 PM

飛べない翼


「いてっ」

 背中に走った痛みに思わずその場にうずくまった。
 あと少しで飛べたのに。
 後ろからザリザリっと足音がして、黒の革靴が視界に入った。

「何すんだよ!」
「まだ早いですよ、飛ぶのは」

 見ると男の手には、翼みたいなものがあった。

「は? 何言ってるんだよ、関係ねぇだろ、アンタに」
「ありますよ。担任ですから」
「意味わかんねぇんだけど。背中痛いし、ていうか、何それ?」
「あぁ、これですか。キミの翼です。飛ばないように、もぎましたから――」

 背中をさすってきて「痛いですか?」なんて聞いてくる。

「本来、死ぬ時しか見えないんですよ、この翼は……君は」
 
 ――あぁ、そういうことか。
 
「がんばりすぎです。17でこんなに立派な翼にならなくていいんです。立てますか?」
「…………」
「おんぶしますか?」

 ――はぁ? 何言ってるんだよ、この先生……。

「……先生って、一体……何者?」
 
 揺れる背中で聞いた。
 あったかかった。

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