私だけ!
「お前なんか産まなきゃよかった」母親が憎々しげに呟く。
私だけ!
「気持ち悪いんだよ。早く死ね」同級の男子が吠える。
私だけ!
「あんたは友達じゃない」メシともがほざく。
私だけ!
「うざいババアだよ、私って」
世界の終わりに君とって、言われた事ない。
夫は「自分だけで精一杯だから、ムリ」
亡くなった母は私に母性を感じずに、養女に出した。
妹は高熱を出して冷たい飲み物を頼んだ私に
「お腹一杯で動きたくない」とのこと。
そういう私も、いざ大波や地面崩壊が始まったら
相手を突き飛ばすだろう。
映画のようにロマンチックにはいかない。
天気の話なんてどうだっていいの。わたしの話したいのは、大事な時に逃げるあなたのその態度よ。よそのお爺さんがわが家の庭に犬を放した時よ。私はその犬に噛まれそうだった。なのにあなたは黙って見ていた。お爺さんは自分で犬のリードを外したの見てたでしょう!
「あは、猿みたい」
4歳の私は、生まれたばかりの弟の顔を見て思わず呟いた。
それを聞いた母親の顔、まさに鬼のようだった。
「お前の顔はもっと醜かった!」
そこから私の地獄が始まった。
母親は徹底的に私を無視した。
蝿のように叩き、汚いと怒鳴り続けた。
ささやかな天国が訪れたのは結婚してからだった。
夫と猫の里親になってからだ。
人見知りで神経質な猫は、子供の頃の私に似ている。
何度も猫を抱き締めて、大好きと繰り返す。
私の心がゆるゆると溶けていく。
私のささやかな天国。
住めば都というけれど、ど田舎生活は楽じゃない。
特にアップデート不可の老人には泣かされる。
車で外出しようものなら、怖い顔して怒鳴り込んでくる隣の婆さん。
「あんたのこと毎日見張っているんだから」
婆さんちの車でも、嫁でもないのに。
犬の散歩をする爺さんは、私の家の庭に犬を放す。
庭にいた私に吠えかかってきた。
「俺の庭に入ったら、この犬噛むからな」
何で噛む犬を他人の庭に放すのか。
こんな老人たちに振り回されっている私はバカみたい!