『風に身をまかせ』11/298
広く、どこまでも広がる青い海。
太平洋だろうか、それとも大西洋か。
ぼくは、その上でいかだに乗っている。
ぼろぼろの布を張って、風を受ける。
どこへ行くのかも知らず、流される。
周りを見れば、エンジンをふかして進む船、
オールを手に持ちせっせと漕いで進む舟、…生身一つ?
みな、どこかを目指している。
彼らが探し求めるものが眠る、その場所へ。
対してぼくは、どこを目指しているのだろう。
まだ分からなくても、きっと、いつか見えるはず。
進むべき道が見えたとき、いかだを捨てて進もう。
それまでは、風に身をまかせ。
『忘れられない、いつまでも。』17/287
「〜で、現在も捜索が続いているとの情報です。
次のニュースです。今月24日、女優の髙橋◯◯さんの自宅に不当に侵入したとして、21歳の男が現行犯逮捕されました。男は容疑を否認しているとのことです。髙橋さんは約半年近くストーカー被害を受けていることをすでに公表しており、警察は同一犯による犯行と見て捜査を続けています。続いて〜」
そこで画面は暗転した。男の冷酷な笑みが暗闇に映る。
男の手にはテレビのリモコンと、それから数枚の写真。
「まだ、まだ。終わらないよ、髙橋ちゃん。
君が僕を見てくれるまで、いつまでも。
これからも、一生忘れられない思い出をつくろうね、
髙橋ちゃん…」
アパートの角部屋から、若い男の笑い声。
『一年後』12/270
ここ最近、よく思う。一年後、私は笑えているかと。
大学受験を控えたこの一年を、無駄にしていないかと。
しかし、それはこの年に限った話ではない。
最初から未来が存在しているのではない。
私たちの行動一つが、一秒後、一分後、そして一歩前の未来を構築しているのだ。
無駄のない人生などは退屈だろう。
無駄は人生に余裕をもたせるもので必要不可欠である、という主張は至極当然のことだ。
しかし、それは過ぎれば怠惰に変わり、必ず未来の私たちを内部から蝕むことを忘れてはならない。
人が一度付いた脂肪を落とすのが困難なように、怠惰という贅肉は簡単には落ちないのだから。
『初恋の日』12/258
日付まで覚えてはないけど、それは幼稚園の頃だった。
年中さんのときに同じクラス⸺たしかりんご組だったかな?⸺になって、彼女と知り合ったんだ。
僕と同じくらい身長が低くって、活発そうな肌の色に、つやつやとした黒色のポニーテールがよく似合う、それはそれはかわいい子だった。
今と違ってまだ可愛げがあった僕はなんとか彼女と両思いになれたんだ。アプローチは覚えていないけど。
しかし今でも覚えているのがね、幼稚園のお泊まり会。
みんなでホールに布団を敷いて並んで寝るわけだ。
もちろん隣に布団を敷いたさ。
で、いざお休みという時、彼女、なんて言ったと思う?
「わたし、誰かに手を繋いでもらわないとねれないの」
はあ…
どうして引っ越しちまったのかねえ、僕は。
あの頃の甘い初恋の日々。
この時期になると思い出しちまうね。
『明日世界が終わるなら』22/246
ピリリリリ…ピリリリリ…ピリリリリ…ピ。
ジジッ…ガガガ…ブウウーー…ン………
[2038/09/24/23:53:28]
…あ、ごめん、起こしちゃったかな。
ふふ、おはよう。ごめんね、こんな遅くに。
あー…何か特に用があるわけじゃなくて…
って待って待って切らないで!
明日も早いから寝させてくれ、って?
…それは……早く寝ないとね!
でも、その前にちょっとお話したいことがあるの。
聞いてくれる?
…ありがと。ふふ、あなたは本当に優しいね。
…あの……さ。もし、もしだよ。
もし、明日、世界が終わるなら。
あなたは、何がしたい?もし良かったら、聞かせて欲…
[2:24間データ欠損]
…当に、そんな事でいいの?明日で、終わりなんだよ?
まあ…私は別にいいんだけど…さ。
え?なんで急にそんな事を、って?
…ちょっと気になっただけ!
なんにも隠してなんかないってば、もう。
あ、でも、明日の放課後ちょっと時間ちょうだい!
せっかく聞いちゃったし、明日はあなたが言ってたその
[2038/09/24/23:59:59]
ジジジ…ガ…ガリガリガリ…ジー…
………ジジ……………
……………………ガ……………
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