〜空模様〜
あなたが私のもとを去ったのは
雲一つない快晴の日でした
あまりに眩しい青空が
憎くて憎くて悔しくて
涙も拭わず睨んでた
あなたの理解者になりたかったけど
私では役不足だったようね
その事実が少し寂しいけれど
他の人に譲るとするわ
今眺めているこの空を
あなたもどこかで眺めているかな
この空を見上げているあなたが
笑顔でありますように
〜君の奏でる音楽〜
音楽は不思議だ
その曲を聴けば当時を思い出したり
カラオケで歌えば必ず泣いてしまう歌があったり
人生の一ページを彩る音楽
影響は計り知れない
人が集まれば音楽はその場や人生を盛り上げる
最高のエフェクトにもなる
ステンドグラスが綺麗なチャペルのあるホテル
それが私の式場だ
挙式を終えた後、一同は小さな個室に移動した
親と兄弟、友人だけのいわゆるジミ婚と言うものだ
地味とは言うけれど、気心の知れた
大好きな人に囲まれた式は私にとって
心地の良い最高のものだった
その部屋には小さなカラオケ機がセットされていて
場の雰囲気で友人が歌で祝福してくれた
新郎新婦もなかば強引にカラオケを強制させられるのは
こう言った場では良くあること
美味しい料理に楽しい音楽
終始和やかなムードで時は過ぎ終盤
聞き覚えのあるイントロが流れると
父はおもむろに席を立ちステージに上がる
普段歌なんて歌わない父
驚く中、歌が始まった
少し音のズレた「乾杯」
私の胸に響き渡り、不覚にも泣いてしまった
結婚式の数日前に
「やっぱり結婚には反対だ」と言って
みんなを困らせたのは
離れることを寂しがってくれたから?
父から娘へ最初で最後の歌のプレゼント
テレビから「乾杯」が聴こえると
当時の風景が広がり、不器用な父の姿にまた胸を打つ
〜麦わら帽子〜
くたびれた案山子の頭の上に麦わら帽子
畑の主人の労いかしら?
いつもお仕事ご苦労様の気持ちを込めて
そんな主人もすっかりお年を召されて
折れ曲がった腰が日々の仕事と年月を物語る
苦楽を共にした同志は
今日もせっせと仕事に励む
そんなこと露知らず
電線の上では鳩や雀が作戦会議中
今日もどの畑のおこぼれを拝借しようか
じっくり吟味する
一斉に飛び立ち狙いを定めたのは他所の畑
鳩や雀も2人を労った計らいかしら?
〜終点〜
どれだけの時間が経っただろうか
いくつものトンネルを越え
嵐の日も快晴の日も
来る日も来る日もこの電車は走り続ける
途中の駅から人が乗っては降りていく
どれくらいの人を迎え入れ
どれくらいの人を見送っただろう
一緒に乗り合わせている乗客を眺めていると
隣に座っていた祖母の声がして振り返る
「次の駅で降りるわね」
予想していなかった言葉に戸惑う
「どうして!?そんな…急に…」
取り乱している私を諭すように祖母は言う
「次の駅が私の終点なのよ」
堪えていたものが一気に溢れ出る
「…一緒に降りる…置いていかないで…」
泣きじゃくる私に祖母は困ったように微笑んで
「あなたの終点はまだ先でしょ?
たくさんの風景を見て来なさい」
背中を摩ってくれる祖母の温もりを感じ
また涙が溢れ出た
祖母越しに駅のホームが近づいているのが見えた
残された最後の時間
その姿を焼きつける
涙で滲む目を何度も擦り目一杯の笑顔を向ける
「いろんな風景見て来るね。
またおばあちゃんに教えてあげるから」
まだまだ側にいたい気持ちをよそに
また電車は走り出した
〜蝶よ花よ〜
歳を重ねる毎に綺麗になっていくあなた
あなたは私の誇りよ
あれはいくつの頃かしら
口紅がなくなっているのは
あなたの仕業だって気づいてた
お気に入りのワンピースも
あなたが気に入ったのなら持っていて
私の趣味ではないけれど
あなたが気にいると思って買ったアクセサリー
これもいずれはあなたの物ね
…こんな母を許して
あなたが輝く度に胸を痛めるこの母を
怖がりなこの母を
守る術を知らないこの母を
あなたが傷つき壊れてしまわないか怖くてたまらない
大切で愛しい私のムスメ
どうか幸せであれ