大切なもの
探し物はなんですか。
見つけられるものですか。
それは目に見えるものですか。
誰にとって価値があるものですか。
探し物はありますか。
見えにくくはありませんか。
それは楽しくなるものですか。
それとも愛しく思いたくなるようなものですか。
大切なものを探しませんか。
誰かにとってのものではなくて
あなたにとっての唯一無二。
誰かのためにさがすのではなく
自分のための唯一無二。
誰かにとっては価値がなくても
私にとってあればいい。
誰かが悲しむものではなくて、
貴方が望む喜びであればいい。
大切なものはありますか。
見つけにくいものですか。
カバンの中も、机の中も、どこにだって
自分があるとおもうなら
きっとそれはどこにだってあると思うのです。
エイプルフール
『嫌いだなんて嘘だよ』
一方的に別れを告げて音信不通になった癖に。
記憶の片隅から苦い味がした。
忘れていられた時間から引き戻される事に
憎しみにも似た怒りを覚える。
別れの時と同じ様に一方的な手紙には
先の長くない時間の中で幸せだった時間を
ありがとう、と言った内容がある。
身勝手にも程があった。
プツリと切られた糸を未だに未練たらしく
持っていると思われているようで。
だった一言の別れすらから逃げて
終わらせられない過去を美しく飾って逝くなんて許さない。
84円の送料は110円切手になったと言うのに
いつまで過去を利用するのか。
だった一言『貴方なんて大嫌い』
そう書いた手紙を郵便局で窓口に渡した。
『すみません、出したら消印の日付は何日になりますか?』
そう言うと不思議そうに局員は答えた。
『今からだと午前の便なので4月1日になると思います。』
私は少し頷くと窓口に預けた。
気づいても気づかなくてもいい。
もう赤い糸などとっくに切れているのだから。
好きじゃないのに
『働きたくない…』
谷底に届くくらい低い本音が漏れる。
求人欄を読む目が滑るのに働かなくてはいけないという強迫観念が背中を押すから指は勝手に画面をスクロールする。
働いて楽しかったことがない。
業務に興味もなかったし
人間関係も最悪。そもそも人が好きじゃないのに
同僚達はニコニコと仲良しを演じながらくだらない事一つ一つで隠れて互いに悪意を向けては笑い合っている。
好きになれない。
楽しくないのに働かないといけない。
何か一つでも楽しい事があればこそ
何もないどころかめり込むほどに減点しかない。
転職を決めたがスキルがなく、
中途入社の新入社員にスキルで負ける。
自分の不甲斐なさにため息しか出ない。
ため息をついている暇などないから勉強しないといけないのだけれど何から勉強したらいいのか。
そもそも世の中に好きじゃないものが多すぎる。
アレも嫌だこれも嫌だと言える年齢でもないけれど、最後の転職ならもっと素敵に働きたい。
圧倒的に自己分析が足りなさすぎる。
好きじゃないものを積み上げればそこから好きが見えるかもしれない。やりたくないことを挙げていけばやりたい事がわかるかも。
結果は出来るスキルと時間の無さだった。
ほんっと後悔してる。
惰性で生きてしまった事を。
今からでも間に合うだろうか。
求人欄に目を戻す。
『働きたくない…』
生きるって大変だ。
だって好きなものじゃないものを
続けてるだけで偉いのだから。
バカみたい
あーあ、ほんっとバカだなぁ。
いつもいつもニコニコしちゃって利用されてんのもわかってないの!
聖書を読むフリをしてこちらに向かってニコニコと手を振る両親に気が付かないフリをする。
本当に呆れる程に滑稽な話だと思う。
善良と書いてばかと読むのではないだろうか。
薄寒い程にお綺麗な教義を前に、一心不乱に信じ込む世界は、常に現実と向き合う事から逃げる事で成立する。
ほんっとバカなんじゃないかな。
顔を上げれば似たような表情の信者たちと
似たような姿で似たように盲目的に信仰をする人達の中に、私の親は埋もれていた。
目に見える世界は虚構ばかりだ。
あぁやって両親に笑みを浮かべて近寄っていく人間たちの何人が信用出来るというのか。
困った時はお互い様だから、そういって笑いながら差し出したお金が、戻ってきた事が何回あるというの。
美しい世界がないからこそ、虚構の美しさは輝く。そんな事がわからないのに、何を美しい世界だと言えるんだろう。
『アニスちゃん』
思っていたよりもずっと近くから母の声が聞こえた。顔を上げれば心配そうな声がする。
『大丈夫?元気がないみたい。』
そう心配する母の表情に嘘はない。
誰よりそばに居る自分だからこそわかる。
そこに救いのなさを思い知る。
『なんでもないよママ。少し疲れたみたい』
取り繕うように浮かべた笑顔に母はニコリと笑った。
『そう、アニスちゃんは頑張り屋さんだからきっと頑張ればもっと上のグループに入れるわ。ママはアニスちゃんの事なんでも知っているもの。』
笑顔の母に同じ様な仮面で笑い返す。
足早に去っていく母の後ろ姿を表情を変える事も出来ずに見送った。
無性に何かに耐えられない気持ちを笑顔に隠す自分はどんなふうに映るのだろう。
あーあ、本当に本当にバカだなぁ…
誰に聞かせるわけでもない小さな諦めは
誰に向けたものなのか、
自分自身でもわからなかった。
不条理
理不尽だなぁ…と世の中思う事がたくさんありすぎる。