君の目を見つめると
いつかの君が、差し伸べた手を
僕は取らずにとっておきたかった。
それは、初めて君が
僕をちゃんと見てくれたって
ちゃんと思えたことだったから。
君はいつも目を逸らす。
ブロンドのまつげに縁取られた細い目
黒いパーカーの袖から見える白い手
全部が君で
世界も君だ。
閉じることのなくなった
君の目を見つめると、なんだか
とても
エイプリルフール
4月1日
今日は"ウソの新年"。
「今日は何度でも嘘をついていいのだよ。
どんな嘘でもね、いいのだよ。」
小さな胸を仰け反らせて
まるで貴族のように振る舞う我が妹。
「…どうしてかしら?
どうして今日は嘘をついても良いの?」
「むむ!貴女はかの有名なお嬢様!
ふふん♪特別に教えて差し上げましょう!」
すると、おもむろにスマホを取り出した。
「…………」
「えーと、あったあった…
こほん!えー、"フランスでは、3月25日を新年として4月1日までお祝いをしてい……(割愛)。"」
ながながとwikiかなにかを読み上げる我が妹。
「あ、あと大事なことが一つあるのだよ!」
指を立ててさも重要なことだと言いたげな顔をする。
「それはね、お昼になったら嘘だったって
ちゃんと言わなきゃなのだよ!」
たっぷり時間をかけて言葉を繋いだ。
「でもね、我が妹よ。」
「ん?なんだね」
「もう夕方なんだけど、いつまで続ける?」
愚かな妹。
幸せに
ゆらりと波打つ水面。
舟の上で、水を揺蕩う一人の男を見つめる。
微かに胸が上下しているところを見ると
生きてはいることがわかる。
たまに手を緩く握ったり閉じたり。
何かを探すように腕をざわつかせる。
パドルで彼を突いてみる。
すいっと更に沖の方へ流れていく。
髪の毛が水面を滑る。
自分はパドルを握りしめ
未だ煙の上がる都市へ目を向ける。
まだ青い空と海。
彼の望んだことは何でも叶えてあげたいから。
これが君の望みなら。
どうか幸せを享受して。
いつか還ってきたときは、教えて。
しあわせに。
ないものねだり
気になるあの人。
私にはないもの持ってる。
綺麗な顔に、綺麗な人柄。
いいな。欲しいな。
あの人はケンキョで慎ましい。
私だったらもっと上手く生きてあげられるのに。
気になるあの子。
私にはないものを持ってる。
恵まれた家庭に、親からの愛。
いいな。欲しいな。
あの子はゴウマンで横暴。
私だったらもっと上手く生きてあげられるのに。
泣かないよ
結局、あの日から何年経っても
あンたは泣き虫なままだったよね。
「俺、もう成人よ?流石に泣かんて。」
「ほんとう?じゃあ…」
「それにさ、たしかに泣き虫は認めるけど
高校入ってからとかぜんっぜん、ひとっつも
泣いてないから。」
「本当なのか〜?違う高校だからって
嘘ついたらだめよー」
「…………」
「ほら、何とかいいなって」
「俺は、もう泣かんよ。だから心配するなよ。」
「あンた…」
まだ、あンたは泣き虫なままだ。
でも、頼りがいのある男になったね。