たまには
「たまにはさ、水彩とかじゃなくて他のやつやったら?」
「……お前は絵を描かないからそう言えるんだ。」
「そう?俺だってたまに絵、描くよ。…マジでたまに。」
「落書きみたいなもんだろうが。」
「え〜、ちゃんとスケッチブックに描いてるよ。」
「線整えたり色つけたりしてないだろ、どうせ。」
「どうせ、とか言うなよ〜!100均のアルコールペン使ったよ、見ろこれ!俺の自信作。」
「ん、……ぶっ、なん…ナニコレっ…っははは!!」
「あっ、おい笑うなって!」
「ふふふ……だ、誰だよこれ…もはや原型とどめてねぇって…」
「い、いーだろべつに!誰描いたってさぁ!そんな事言うなら、もうお前に見せてやんねーし!」
「はー…笑った笑った……ごめんて、俺お前の絵好きだよ。」
「…………」
「おーい、拗ねんなってぇ…」
「……知らね、絵の具まみれのままリビングうろつくなよ。」
「はいはい、りょーかいです。」
「ま、たまには彼奴の言う事聞こうかな。」
ひなまつり
!-attention-!
⚠二次創作要素が入ります。⚠
⚠ ご注意下さい!!⚠
──────
来る3月3日
ひなまつり一雛祭りーとは 女の子の幸せと健やかな成長を願ってお祝いする日。
「……と、いうわけで。うちの本丸は豪勢な料理は作りま せん。」
居間に集まった食いしん坊たちがざわめきだす。
「た、大将!乱は女の子だろう!」
「「違うよ?/違います。」」
「くっ……」
「大将、宗三は…」
「ちょっと薬研、巻き込まないでくださいよ。いくら僕が 綺麗だからって…やっぱり魔王の手が入った……」
「あ、主!アタシは髪の毛長いし! お雛様に似てるでし ょ!?」
騒ぎ出す─主に粟田口と呑兵衛の─刀剣達。 元から居間で茶を嗜んでいた鶯丸と三日月宗近は我関せずと正座をしている。
「すみませんな、主。なにせ弟たちの頼みでして…」
「申し訳無い、次郎を止めることができず…」
「ハッハッハ!こりゃあ驚いた!騒がしいなと思って来て みればこんな…… 主、俺もひなまつりをしてみたいなぁ?」
息を切らして長兄方が回収に来ると同時に 声高々と驚き爺がやってきた。
「はぁ…だからな鶴、うちには女子が……」
ちらりとそちらを睨んでやろうと目を向けると
大きな"胸"をはって仁王立ちをしていた。
「ふふん、どうだい?驚いたか!」
隣りに居た一期はとっさに目を覆い、太郎は天を仰いだ。
いつもの軽装姿の鶴丸(女)は当然下着など着けてる
はずもなく。
筋肉の消えた細い柔らかそうな腕が延びている。
「……鶴、ちょっと来い。」
「ん?どうした反応が薄いな…ってうお!?」
居間を離れると襖が閉まる音がした。 ありがとう、長兄。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
…主命だ、始めよう。
ひな祭りの起源は約1000年前程だそうだ。
もともとは無病息災を願う行事だったらしいが 江戸の頃に女子の"人形遊び"と"節句の儀式"が 結びついたことで全国に広まり、人形を飾るように なったらしい。
3月にひなまつりをするということになったのは 大正以降かららしいぞ。
…さて、そろそろ戻るか。 ん? なんでこんなことしてるのかって? 主命だからな。それ以外に何がある?
じゃあ俺はもう戻るぞ。あの新入りに主を取られたら敵わんからな……
______
「おお、主殿、無事に帰ってこられましたか。」
「一期ぉ…それは俺に言ってほしい言葉だぜ……」
さらしを巻かれて苦しそうな鶴丸が
一期のフードを引っ張る。
「ぐえっ、ちょ、鶴丸殿!苦しいですぞ!」
「うるせぇー!バグがなくなるまでこのさらし巻いたままですごせなんて…!一種の拷問だろう!!」
涙目で訴える鶴丸を傍に控えていた太郎が引き剥がす。
「鶴丸殿、あまりそのようなことをなされてはいけませんよ。今は仮にも女子の身体なのですから。」
「はぁあ!?くっ、この身体になってから思うように力がっ…!」
悔しそうに唇を噛み締め
太郎の手首と一期のパーカーを握り締める鶴丸。
「主…んん?その格好、鶴丸か?丁度いい!一緒にひなまつりをするよう主を説得しよう!!」
「はぁ…今それどころじゃねえんだよ……」
「諦めなさい、鶴丸殿。日頃の行いでしょうに。」
ぜえはあと大袈裟に息を切らす鶴丸は
ふと思い立った。
(…ひなまつり、と言ったな。と言うことは……)
キラリと目を光らせ後ろにいた審神者に目を向ける
「主!俺は今女だろう!ならひなまつりをしてもいいんじゃないか!?どうだ!」
してやったり、
そんな顔で審神者を見据える鶴丸国永。
そして
「元は男だし、それ以上は成長しないだろう?」
それを一蹴する審神者。
「えっ、鶴さん女の子だったの?」
勘違いをする燭台切光忠。
これをひとえに、"カオス" と呼ぶことができる。
そんなこんなでざわめきで終わった3月3日。
結局は、盛大に勘違いした燭台切が
ちらしずしを振る舞い、事態は無事に落ち着いた。
──────
賑やかな本丸の賑やかなひなまつり。
お楽しみいただけたなら幸いです。
物憂げな空
「もう真っ赤ね」
彼女はそう呟く。
「何がだい?」
「お空よ、お空。さっきまで真っ青だったじゃない。」
唇を尖らせ不満そうに言う。
「あたし青いお空のほうが好きなのよ。」
「そうかい?僕はこの日が沈みきらない
物憂げな空が、好きだよ。」
空気を少し吸う。
小さな命
揺ら揺らと揺蕩う
眼の前にあるのは得体の知れない
でも、庇護するべき生物。
なんとなく「守らなければはいけない」という
思いに駆られる。
目も開けず、声も出さず、ただ揺ら揺らと。
ほんのり光るだけの
意志のない生命体
──意思がないのに生命体と言えるのか?
今目の前にあるのは息もしないし
植物と言うにも無理がある。
──その答えは研究者に問うと良い。
ロボットにも人権を与えようといった革命家にも
問い合わせると良い。
──その答えは我々研究者では答えかねます。
なので提唱し始めた聖職者に聞きなさい。
──ロボットとソイツはちょっと違う。
どうしても知りたいってんなら
霊媒師かなんかに聞いてみな。
きっと望む答えがあるはずさ、多分な。
これは天に昇った者たちが遺した小さな命。
目の前で揺られているのは
紛れもない生命体と呼べるでしょう。
意思がなくとも
考えることができているならば
それは生きている証です。
──猫またが出るってよ
行願寺の辺り、夜になると
化けてでてくるって
その辺りに住んでいた私は
窓辺からそうっと
外からは見えないように慎重に覗いてた
「はぁ~あ!ここらのはもう制覇しちゃったかねぇ…」
坊主頭の男が歩いている。
彼奴は誰よりも連歌が好きな俗な法師だ
名前はなんだったか、何阿弥陀仏だとかいったか。
そういえば今日もここいらで
連歌の集まりがあったな。
思いの外盛り上がった末に
あの法師が優勝したらしい。
「ふふん、俺に勝てるやつはもう居ないだろう。」
扇や小箱を懐に入れて悦に浸る法師は
暗闇の中光る目に気づかない。
鼻息を荒くして法師に向かっていく。
「ん?ひ、うわぁあ!!」
素早い動きで法師の足元へ行ったと思えば
今にも頸を食い千切らんとするほど
大きく口を開け飛びついた。
「ひえぇ、猫まただ、猫またが出た!助けてぇ!」
大声に何だ何だと人々が
松明をともして出てくる。
「どうしたんだ、こんなとこで大声だして」
「猫まただよ!あ、アイツがでやがったんだ、俺を食おうとした!!」
町の人は法師を助け起こそうとするが
腰が抜けたのかズルズルとしなだれている。
尚もやいやいと騒ぎ立てる法師は
ハッとしたかのように人の手から逃れようとする。
「そうだ!ここにはまだ猫またがいる!に、逃げねぇと、今度こそ食われちまう!!」
腰の抜けたまま這う這うの体で
自分の家へ逃げ帰ろうとする。
その後を追うように
法師の飼っている黒い犬が
走り抜けて行った。
法師の後ろ姿を見る町の人々は
呆れたように肩をすくめた。
誰よりも連歌の好きな法師の
間抜けな叫びがまた響いた。