M.IZRY−深刻なエラーは治らないようです。

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10/14/2025, 11:56:17 AM



──────

しゃり、しゃり。
あまくてさわやか。
しゃく、しゃり。
みずっぽい。
しゃり、しゃり。

しゃり。


すこししょっぱい。

7日目の放課後。
君はもう居ない。

8日目の朝。
君は居ない。

白い部屋の中は空になっていた。

───



「お土産、持ってきたんだ。梨。すきだったでしょ」

夏。じわじわとなる蝉の声。
君は日差しを受けて火傷しそうなくらい熱くなっている。

「……ん、やっぱりおいしーね。母さんが買ってきたんだよ、君の誕生日だから渡してやれって」

本当は、果物を食べたのは君と一緒に食べたあの時だけ。

「"かおり"だっけ、これほんとにすきだったよね君は」

甘い。
あの時助けてもらったときからこの甘さが好きになった。
じわりとひろがる暖かさが好きだった。

「君と同じ名前だよね。だから好きだったのかな、君って案外単純だし」

あの日から、食事を楽しみに出来た。
甘かったし、苦かったし、酸っぱかった。

久し振りに「味」を感じられた。

「ね、かおり。君も食べれたらよかったのに」

石の下に埋まった粉々の君。
口も舌もない。

味を感じることなんてできなくなってしまった、君。

「ねえ、こんなに悲しいことってないよ」

君が居なくなった。
けれど、この甘さは消えない。

じりじりと太陽が頬を焼く。

「…………あーあ、自分も早くそっちにいきたいな」

君の誕生日なんて、ほんとは知らない。
自分の両親なんてとうに居ない。
天涯孤独な自分に差した、たった一つの光。

君はもう居ない。

ひたりと、焼けた君に頬を当てる。
痛みが君を証明している。

そんなことはないのだけれども。

「ねえ、迎えに来てよ。あのときみたいに」

初めて出会った屋上で。
初めて食べたあまいもの。
初めて感じた優しさ。
初めて想った君のこと。

自分の初めては君だけだったのに。
自分の初めては君だけが良かったのに。


「すきだよ、かおり」

どうせなら、自分が死ねたらよかったのにね。

悲しむ人が大勢いる君よりも
ひとりぼっちの自分が死ねたなら。

君だけは幸せに生きて欲しかった。
君と一緒に生きたかった。







でも、大丈夫。

ひとりはなれてるから。

心配しないで。

9/16/2025, 11:58:52 AM

答えは、まだ

────────

理由のない焦燥感が、目を冴えさせる。
いつも人より遅れてゴールしてしまっている。
徒競走もマラソンも小学校のテストの100点も。
決まって最後は私だ。

出席番号も最後。
課題の進捗も亀より遅い。
頭も身体もスペックが低い。

病院に通うことになった。
深刻な心のバグが発生してしまった。
ただでさえ周りからは一歩遅れているというのに。

一歩どころかグラウンド一周分離されている心地なのに。

心のバグは完治するのだろうか。
治らなかったらどうしようか。
遅れてしまった分はどうやって取り戻そうか。

なんとも癒えないドロドロが傷を這う。

私たちは生きているだけでお金を消費する生き物だ。
お金は労働の対価として発生するものだ。
労働もせずに消費していれば、いずれ分かること。
気が付かないほど、私は馬鹿じゃなかった。

心のバグには病名がついた。
病気なら、許されるのだろうか。
許される為に生きなくてはならない事は知っている。

それでも、それでも考えてしまう。
どうしてだろうか。

この問いに答えを求めることは愚かだろう。
馬鹿で、阿呆で、意気地無し。

卑下ばかりすることはよくない。
知っている。
知ってる。
言われなくても、知っている。

心のバグはバグらしく思考を汚染させている。
社会人になっていく周りを見ると落ち込む。
体調を悪化させてメンタルをぶっ壊していく。

どこにも居場所なんてないんだぞ。
お前は役立たずなんだから。
早く社会の歯車になる練習をしないと。

役立たず。役立たず。役立たず。

…⋯⋯⋯この文章を書いているおかげで
正体不明の焦燥感に理由が出来た。

このアプリをダウンロードしたころは
純粋に小説書きたい一心だった。
けれど、今日は少し壁打ち気味に文章を書き殴った。

これはいい。

お題とは関係のない結末。
けれども理由が分かって安堵した。

理由は分かれど焦燥感は消えないが。

誰かがこの文章を見て、ハートを押す。
そう考えると自己肯定感と承認欲求が上がる。
今までもそうだった。

自分の稚拙な文章が誰かの心を動かした証拠。
確かな証になるのだから。

次に書く時にはバグが少しでも良くなってますように。


名も知らない誰かさん。
見てくれてありがとうございました。
貴方が健やかに社会を生きられることをここに願って。

おやすみなさい。

7/7/2025, 12:27:48 PM

願い事

──────
例えば、この物語がフィクションだと。
誰かの創作物だと。

そう思うと気が楽になってしまう。
何度目かのボツ案で、この物語は途中で終わる。
そうしたら、私は子供のままで。

未だに燻り続ける片想い。
まだ手を付けていない課題。
借りたままのハンカチ。
週末の遊ぶ約束。
消し忘れた部屋の電気。
目の前に転がる血のついた包丁。

殆どの事が私が悪くても、逃げられるなら。
責任から逃げられるなら。

私はこの短冊に願いを込める。


神様、このセカイはボツにしてください。

7/6/2025, 11:21:09 AM

空恋

──────
結局私は、空を見上げることはなかった。
前を、その足元を、見ていた。

見慣れなかった泥の中に星を見た。

私の空は、上にはなかった。
偽りに映った星空が好きです。

瓦礫に埋もれた小さな花も、私を慰めた。
上から降り注ぐ冷たい涙は、心を冷やした。

この心は、報われることなど無いのだろう。
都合よく勇者が現れることは無いのだろう。

それでもまだ、今はまだ、

俯いたままに、赤い空を想わせて。

5/9/2025, 1:49:50 AM

届かない…
──────

「うん……」

 ぐうっと背伸びをして、本棚の頂点に居る御猫様と鼠の玩具を目指す。背の無い私には、到底届きはしなさそうだった。
 御猫様は悠々と毛繕いし始めた。嗚呼、そんな場所で毛繕いなどされたら御身体を壊しますよ……

「御猫様、どうか降りてきてください……あわよくば、お近くにある其処の鼠も持って……」

 にゃあ、とひと鳴きすると、尻尾でこちらに埃を被せてくる。続いて鼠が頭に落ちてきた。ぺしゃりと柔らかい感触が頭にあたった。

「ひい、ち、血が……!」

 得意げに鳴いた御猫様は、私の頭を狙って飛び降りた。軽々と床に着地すると、身なりを整え、大旦那様のお膝へと飛び乗った。

「御猫様、家の手伝いを虐めてやるな。あれは鈍臭いが良い奴なのだよ」

 大旦那様……それは褒めていらっしゃるのですか?

「……あ、鼠の玩具がまだ上に」

 どうやら御猫様のきまぐれは、私を助けてはくれないようだった。

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