願い事
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例えば、この物語がフィクションだと。
誰かの創作物だと。
そう思うと気が楽になってしまう。
何度目かのボツ案で、この物語は途中で終わる。
そうしたら、私は子供のままで。
未だに燻り続ける片想い。
まだ手を付けていない課題。
借りたままのハンカチ。
週末の遊ぶ約束。
消し忘れた部屋の電気。
目の前に転がる血のついた包丁。
殆どの事が私が悪くても、逃げられるなら。
責任から逃げられるなら。
私はこの短冊に願いを込める。
神様、このセカイはボツにしてください。
空恋
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結局私は、空を見上げることはなかった。
前を、その足元を、見ていた。
見慣れなかった泥の中に星を見た。
私の空は、上にはなかった。
偽りに映った星空が好きです。
瓦礫に埋もれた小さな花も、私を慰めた。
上から降り注ぐ冷たい涙は、心を冷やした。
この心は、報われることなど無いのだろう。
都合よく勇者が現れることは無いのだろう。
それでもまだ、今はまだ、
俯いたままに、赤い空を想わせて。
届かない…
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「うん……」
ぐうっと背伸びをして、本棚の頂点に居る御猫様と鼠の玩具を目指す。背の無い私には、到底届きはしなさそうだった。
御猫様は悠々と毛繕いし始めた。嗚呼、そんな場所で毛繕いなどされたら御身体を壊しますよ……
「御猫様、どうか降りてきてください……あわよくば、お近くにある其処の鼠も持って……」
にゃあ、とひと鳴きすると、尻尾でこちらに埃を被せてくる。続いて鼠が頭に落ちてきた。ぺしゃりと柔らかい感触が頭にあたった。
「ひい、ち、血が……!」
得意げに鳴いた御猫様は、私の頭を狙って飛び降りた。軽々と床に着地すると、身なりを整え、大旦那様のお膝へと飛び乗った。
「御猫様、家の手伝いを虐めてやるな。あれは鈍臭いが良い奴なのだよ」
大旦那様……それは褒めていらっしゃるのですか?
「……あ、鼠の玩具がまだ上に」
どうやら御猫様のきまぐれは、私を助けてはくれないようだった。
君と見た虹
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さめざめと、淋しげな雨の音。
さんさんと、楽しげな光の音。
濡れた肌をそっと、君が撫でる。
温かいその指先で涙を拭う。
さんさんと、君との間に虹が架かる。
さめざめと、暗い雲が晴れるように。
乾いた心にしとりと一粒、雫が落ちる。
貴女の言葉が心地よい。
覚めた頃には、君と見た虹が架かっていますように。
夜空を駆ける
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トン、トン、トン、と夜空を駆ける流れもの。
藍色の衣を翻し、輝く星を瞳に抱いて。
今日も誰かの願い事を集めていく。
集めた願いを月まで運ぶ。
ひゅう、ひゅるりら、風にのる。
願いを叶えるお手伝い。
叶わぬ願い、夜空を駆けるあの星とともに。
足音響く、夜空のきらめき。
トン、トン、トン、と。