──猫またが出るってよ
行願寺の辺り、夜になると
化けてでてくるって
その辺りに住んでいた私は
窓辺からそうっと
外からは見えないように慎重に覗いてた
「はぁ~あ!ここらのはもう制覇しちゃったかねぇ…」
坊主頭の男が歩いている。
彼奴は誰よりも連歌が好きな俗な法師だ
名前はなんだったか、何阿弥陀仏だとかいったか。
そういえば今日もここいらで
連歌の集まりがあったな。
思いの外盛り上がった末に
あの法師が優勝したらしい。
「ふふん、俺に勝てるやつはもう居ないだろう。」
扇や小箱を懐に入れて悦に浸る法師は
暗闇の中光る目に気づかない。
鼻息を荒くして法師に向かっていく。
「ん?ひ、うわぁあ!!」
素早い動きで法師の足元へ行ったと思えば
今にも頸を食い千切らんとするほど
大きく口を開け飛びついた。
「ひえぇ、猫まただ、猫またが出た!助けてぇ!」
大声に何だ何だと人々が
松明をともして出てくる。
「どうしたんだ、こんなとこで大声だして」
「猫まただよ!あ、アイツがでやがったんだ、俺を食おうとした!!」
町の人は法師を助け起こそうとするが
腰が抜けたのかズルズルとしなだれている。
尚もやいやいと騒ぎ立てる法師は
ハッとしたかのように人の手から逃れようとする。
「そうだ!ここにはまだ猫またがいる!に、逃げねぇと、今度こそ食われちまう!!」
腰の抜けたまま這う這うの体で
自分の家へ逃げ帰ろうとする。
その後を追うように
法師の飼っている黒い犬が
走り抜けて行った。
法師の後ろ姿を見る町の人々は
呆れたように肩をすくめた。
誰よりも連歌の好きな法師の
間抜けな叫びがまた響いた。
2/17/2024, 4:40:30 AM