どうして
しん…と教室が静まりかえる。
皆は僕らを見ていた。
「いっ……」
机にぶつかりながら崩れ落ちた彼奴
僕の手には開かれたハサミ。
「…………」
誰も彼もがこっちを見る。
ガラッと先生が入ってきて
みんなを見て、僕を見て、彼奴を見る。
「な、なにやってるんだ!」
乱暴に教室の壁に追いやられる。
ガシッと肩を掴まれてイタイ。
僕の手からハサミが落ちる。
その音を皮切りに
みんなが恐怖を示し始める。
「だ、だいじょうぶ…?」
「いてぇ…マジ痛えんだけど、血が、」
ざわざわと彼奴の方に群がる。
コッチには見向きもしない。
腕から血を流す彼奴を見て
殴られたお腹が、絞められた首が
当時の痛みを思い出していく。
どうしてみんな
そっちにいくの?
僕を見る目は何でかみんな、冷たかった。
夢を見てたい
ジリジリと肌を焼く。
直接肌に映る赤色。
焦げ臭いし、汗で体がベトベトだ。
息もしづらい。
眩しくて目を開けてられない。
ああ
くるしいあつい
煙が目に染みる
ゆめをみる
みんなぼくをみる
わらってる
ぼくもわらう
みんなわらう
ぼくもわらう
自我を持った赤い光
じわりじわりとカーペットを焼いている。
はながいっぱい
きれいなはな
みんなつばさをもっている
だれ?
だれ?
だれ?
どこが
僕の理想?
三日月
⚠二次創作要素が入っています。⚠
⚠苦手な方は飛ばしてください。⚠
季節外れの桜が乱れる新緑の庭。
さらり、と気持ち良く流れる爽風。
一気に息を吸い込むと、存外に冷えた空気が入って来る
考え過ぎて熱を持った頭を冷やすのには丁度良かった。
「主よ、」
縁側に寝そべったままであった自分の体躯に
誰かの足がぶつかった。
「……その声は、”三日月宗近”?」
「あなや…何故こんなところで転がって居るんだ?
まだ冷え込むだろうに…」
ほんの少し顔を顰めて自分の手を取ろうと腰を低くした。
下から見上げても三日月宗近という男は美しい。
「三日月さんはさぁ、理想とかあるの」
「理想?」
ふむ、としゃがみこんだ姿勢のまま考え出した。
手は自分の手を握ったままだ。
三日月の映った──本当は打ち除けらしい─が映った瞳は
長い睫毛で覆い隠された。
月に叢雲、と言ったか、そこまで邪魔とは言わないが
彼の瞳が隠れてしまったのは自分にとって災難なことだ。
すぅ、と息を吸う音が聞こえた
「俺は生憎、そこまで理想、とはっきりと言えるものは
持ち合わせていないなぁ。」
「そうか」
「さりとて、無いというのもまた、得も言われぬし…」
数分考え込んだと思ったら殊に曖昧な返事を返す三日月。
これが周りの人たちに爺と言われる所以なのだろうか
「あぁ、そうだ。」
ぱっと目を明けた三日月は
まるで悪戯っ子の──若しくは短刀達─ような顔をして
「俺は主のような男前になりたいなぁ、」
細めた目には自分の顔が薄っすらと映っているのが見える
「未だ二十と少ししか生きていない癖に、数十、数百年の間刀剣として生きてきた俺達と、」
自分の手を握っていない、左手でそぅっと
「少なくとも、人の一人は殺したことのある俺や
他の刀剣達を笑顔で迎え」
壊れ物を扱うように瞼の辺りを撫で回す。
「俺達付喪神といえど、神と共に暮らすだなんて……少なくとも、”俺は”、主を尊敬し、審神者として認めているぞ?」
言い終わったと同時にぐいっと上に持ち上げられる。
「うわっ!?」
「はっはっはっは…取り敢えず、此処では
談笑するには寒すぎるなぁ。」
ちらりと視界の端に白が舞う
あなや、と三日月が庭を見遣る。
目線の先には同じ白に紛れた鶴丸が居た。
後ろには燭台切が付いている。
「…燭台切が居るなら、大丈夫、かな?」
「どうだろうなぁ」
微笑む姿は月明かりに照らされ優美に照っている。
「……三日月、行ってきていいか?」
「ちゃんと近侍を着けていくのなら、な」
ゆるりと縁側に足を落とすと、ギシリと軋む音が響いた。
何処からともなく、雪玉が飛んできた。
いつの間にか起きてきた短刀たちも交えて
雪合戦が始まっていたらしい。
吐く息が白く染まる。
見上げると、綺麗な三日月が空に浮かんでいる。
思わず横を見ると
そこには三日月は居なかった。
もう一度見上げた月は薄い雲に覆われそうになっていた。
光と闇の狭間で
眼の前には、吸い込まれそうな闇。
後ろは、振り返れないくらい眩しい光。
「……何ココ」
さっきまで布団で温まっていたのに
気づいたらこんな場所にいる。
意味がわからない。
というか
「───寒い!」
そう、とてつもなく寒い。
「何だよマジで…何処だよここ、今真冬だぞ?
暖房ねぇのかよ……」
腕を擦りながら周りを見渡す。
当然、暗闇の中なのだから何も見えない。
だからといって振り返ると
今度は逆に眩しすぎて何も見えない。
「あぁ゙〜!マジでここ頭悪い空間だなぁ!
そもそも何でこんなとこに居ンの!?オレ!」
叫んでみても木霊さえ帰ってこず。
本気ですべてを呑み込みそうな闇だ。
「───あ、」
何かを思いついたようだ。
「寝ちゃえば良いンじゃね!?多分寝てから
ここに来たんだし、寝れば万事解決じゃね!」
なんとも頭の悪い思いつきだった。
それでもこの状況でマトモな判断を下せるのは
極々少数だろう。
「じゃ~オヤスミどっかの誰かさーん……」
寝てしまった。
……本当に寝てしまった。
「スゥ、スー…」
ヤスラカな寝息とともに
後ろの光が強さを増す。
やがて男を呑み込みフッと消える光。
ソコに男は居なかった。
暗闇はやがてフローリングに敷かれた布団を吐き出した。
そこにも、男の姿は無かった。
何時でモ光が安全だと思わなイことだネ
教ぅ訓,ダネ!
落ちていく
白い翼を見た
美しいその人
掴もうと手を伸ばした
呼吸が空回る
人形みたいに瞼が動かない
スルリ、と
頬に
その真っ白い指が
撫でるように
「───────、──」
真っ白な肌に
赤い唇が映える
「──?─────」
間違い無い
やっぱり
僕の
天使だ
「────、──、───────────。」
途端
溢れんばかりの光が
僕等を包む
「────」
息が停まる。