三日月
⚠二次創作要素が入っています。⚠
⚠苦手な方は飛ばしてください。⚠
季節外れの桜が乱れる新緑の庭。
さらり、と気持ち良く流れる爽風。
一気に息を吸い込むと、存外に冷えた空気が入って来る
考え過ぎて熱を持った頭を冷やすのには丁度良かった。
「主よ、」
縁側に寝そべったままであった自分の体躯に
誰かの足がぶつかった。
「……その声は、”三日月宗近”?」
「あなや…何故こんなところで転がって居るんだ?
まだ冷え込むだろうに…」
ほんの少し顔を顰めて自分の手を取ろうと腰を低くした。
下から見上げても三日月宗近という男は美しい。
「三日月さんはさぁ、理想とかあるの」
「理想?」
ふむ、としゃがみこんだ姿勢のまま考え出した。
手は自分の手を握ったままだ。
三日月の映った──本当は打ち除けらしい─が映った瞳は
長い睫毛で覆い隠された。
月に叢雲、と言ったか、そこまで邪魔とは言わないが
彼の瞳が隠れてしまったのは自分にとって災難なことだ。
すぅ、と息を吸う音が聞こえた
「俺は生憎、そこまで理想、とはっきりと言えるものは
持ち合わせていないなぁ。」
「そうか」
「さりとて、無いというのもまた、得も言われぬし…」
数分考え込んだと思ったら殊に曖昧な返事を返す三日月。
これが周りの人たちに爺と言われる所以なのだろうか
「あぁ、そうだ。」
ぱっと目を明けた三日月は
まるで悪戯っ子の──若しくは短刀達─ような顔をして
「俺は主のような男前になりたいなぁ、」
細めた目には自分の顔が薄っすらと映っているのが見える
「未だ二十と少ししか生きていない癖に、数十、数百年の間刀剣として生きてきた俺達と、」
自分の手を握っていない、左手でそぅっと
「少なくとも、人の一人は殺したことのある俺や
他の刀剣達を笑顔で迎え」
壊れ物を扱うように瞼の辺りを撫で回す。
「俺達付喪神といえど、神と共に暮らすだなんて……少なくとも、”俺は”、主を尊敬し、審神者として認めているぞ?」
言い終わったと同時にぐいっと上に持ち上げられる。
「うわっ!?」
「はっはっはっは…取り敢えず、此処では
談笑するには寒すぎるなぁ。」
ちらりと視界の端に白が舞う
あなや、と三日月が庭を見遣る。
目線の先には同じ白に紛れた鶴丸が居た。
後ろには燭台切が付いている。
「…燭台切が居るなら、大丈夫、かな?」
「どうだろうなぁ」
微笑む姿は月明かりに照らされ優美に照っている。
「……三日月、行ってきていいか?」
「ちゃんと近侍を着けていくのなら、な」
ゆるりと縁側に足を落とすと、ギシリと軋む音が響いた。
何処からともなく、雪玉が飛んできた。
いつの間にか起きてきた短刀たちも交えて
雪合戦が始まっていたらしい。
吐く息が白く染まる。
見上げると、綺麗な三日月が空に浮かんでいる。
思わず横を見ると
そこには三日月は居なかった。
もう一度見上げた月は薄い雲に覆われそうになっていた。
1/9/2024, 12:12:34 PM