跪いて、手を差し出す
彼女は微笑み、手を取った
辺りは拍手でいっぱいになり、音楽が流れ出す
夢のような時間ー
…なんて、彼女は思っているでしょうよ
そうでしょうよ
知ってるわ、私は
あなたたちのその、『夢のような時間』の下にある
数々の通行人たちの心のことを
あなたたちに幸せになって欲しいから殺した、通行人たちの叫び声を、恋心を
知って欲しいなんて、思わない
同情なんて、して欲しくない
ただ、笑っていなさい
私たちの犠牲の上で、幸せに
そうなって欲しかったから身を引いたの
踊りなさい、歌いなさい
ほぅら、夢のようでしょう?
知ってるよ
君の好きは誰にも奪えないって
知っているから、悲しいんだよ
私は、君のことが好き
けれど、君はあの子のことが好き
あなたと彼女は結婚できない
何故なら次元が違うから
何故なら彼女は現実にはいないから
それでも、好き、なんだよね
愛して、いるんだよね
そんなあなたを、想ってた
もしも、生まれ変わったのなら
君がずっと愛してる女の子になって出会いたい
優しいあなたと、巡り合いたい
カミサマ、に祈って叶えられるほど
私は出来た人間ではない
どちらかといえば、弱い方だ
そんな人間に、奇跡なんて起きるはずもない
彼女が私のことを好きになってくれる、なんて奇跡が
その子はこんな私でも気にかけてくれる
優しい、優しい子だ
だから、もし、この想いを言葉になんてしたら
きっと重しになってしまう
あぁカミサマ
あの子に、あの、優しい子に
奇跡を起こして下さい
私には奇跡なんていらないから
あの子が好いた人が、また、あの子を好きになる
なんて奇跡を
そんな奇跡を、起こして下さい
そうしてそれが起こった日、
私は隣で笑うのだ
「よかったね」
って
時刻は6時
この世には存在しない筈のものと人が入り交じる時間帯
夕陽が眩しい
海の向こうへ落ちていく太陽の光が
今日はやけに眩しく感じた
目を細めながら歩いていると、
ふいに、誰かとぶつかった
「すいませんっ」
切羽詰まったように謝るその人の声を、
何処かで聞いたことがある気がする
知り合いなのか
確認しようとも、西日が強く顔が見えない
そんなことを考えているうちに
俺の無事を確認したその人は
「じゃあ」
と言って立ち去ろうとしていた
「まって、待ってください!」
大事な人だった気がした
好きだった気がした
ずっと一緒にいたい。そう思ったことがあった気がした
「あなたはー」
夕方6時
この世にはいない筈のものと人が入り交ざる時間帯
その時間のことを、
『誰そ彼』
と人は呼ぶ
いつまであなたを好きでいればいい?
報われないと、知りながら
優しく綺麗な笑みを浮かべて
どんなときもずっと一緒にいて
君を支えてきた
好きだから
あなたのことが、世界で一番、大好きだったから
こんなにこんなに好きなのに
想っているのに
君はやっぱり、あのコが良いんだね
あぁ、なんだろう
頬が濡れている感覚がする
雨は降っていないはずなのにな
きっと、明日も君は彼女のところへ行くのだろう
そしてひとりになった私は、泣いてしまうのだ
あなたのことを、想いながら
あなたを好きだと、呟きながら