部屋の片隅で
忘れられる
粗大ゴミ
嗚呼。
まさかこうなるとは。
落ちていく。
これが最後か。
あの目まぐるしい感情の渦巻に、
無重力の感覚という終止符が付くとは。
皮肉なものだ。
落ちていく。
だけど…
悪くはないかも。
浄化されているような気がする。
重みも圧迫もない世界。
悪くは、ない。
限りなく短い間だけど。
生きている。
今までよりもはっきりと。
私は今生きている。
嗚呼。
冬になったら夏に行こう。
私たちを育ててくれた
生まれ故郷だけど、
冬だけは嫌いなんだよ。
この愛おしい住処を去って、
夏に行こう。
一階のご近所さんは
引き籠もり、
春まで寝ることにするだろう。
そうだとしても、
私は嫌だ。
うちは寒いし、お腹も空く。
だから、
やっぱり、
夏に行こう。
大変な長旅ってのは
わかってはいる。
遠くて遠くて
嫌になっちゃう。
向こうの暖かみを楽しめるまで
犠牲にしなければならんこと
たくさんあるでしょう。
だったらみんなと一緒に
夏に行こう。
ずっといる訳じゃない。
冬が終わり、
春になったら
夏からまた戻って来よう。
愛おしい住処、生まれ故郷。
ちゃんと戻ると約束しよう。
だから冬になったら
翼をいっぱいに広げて
夏まで飛んで行こう。
〜飛べない翼〜
「よいしょ… うひぇっ! いててて…」
「もえみちゃん!大丈夫??」
「うぅー」
「おーい、大丈夫か?何か骨折でもしたの?」
「ううん… 大丈夫。」
「本当に?」
「うん、大丈夫よ。ちょっとお尻を打っただけ。ほら、立てるよ。」
「出血は?」
「ないよ」
「ちゃんと確認した方がいいよ。内出血とか。」
「なんて?声がちっちゃくてここから聞こえないよ」
「内出血もないか、と聞いてる。」
「多分大丈夫。そんなに高くないし。高円寺君も降りていいよ。」
「…かすり傷とか?」
「え?なんて?」
「かすり傷があれば言ってね。消毒液あるから投げようか?ほら、山奥だからバイキンとか多量発生してるだろう。気をつけないと。」
「いいって。それより早く降りてきて。日が暮れちゃうよ。」
「…」
「何?」
「もえみちゃんはものすごく運が良かったよ。いきなり飛んでいってびっくりしたよ。無謀すぎる!」
「ここしか帰れる経路がないって、何回も確認したじゃん!早く高円寺君も降りて。2メートルしかないし、運動不足の私でも平気だったし。」
「めっちゃ痛がってたじゃないか」
「ちょっとだけだよ!バランスを崩して尻餅をついただけ。ねえ、夜になったら本当に遭難しちゃうよ!」
「…」
「ひょっとしたら…」
「…」
「…高円寺君、2メートル飛ぶのが怖いの?」
「…」
「あきれた。一人で帰るわ。」
「えっ!」
その夜22時30分頃に、中原萌美(17歳)の通報により、救助隊が遭難者・高円寺翼(17歳)を発見、梯子を用いて無事救助しました。
鏡の中に自分がいつもいる。暇なのか?
鏡の中の自分が真似してくる。いたずらなのか?
鏡の中の自分とよく目が合う。運命なのか?
鏡の中に自分が何人もいる時もある。陰謀なのか?
「身支度、まだ終わらないの?」
と叱られる。