赫夜

Open App
7/25/2024, 8:31:08 AM

 土俵に上がる。

 ようやく、この場所に辿り着いた。

 目の前には、鍛え抜かれた体に廻し1つを身につけた親友が――好敵手が立っている。

 ここからは、俺の全てをアイツにぶつける。

 余計なものを全て削ぎ落せ。

 奴に対する熱を高めろ。

 より冷徹に。そして、より熱血に。

 己を練り上げろ。

 さぁ、始めよう。

 お前を喰らうのは――俺だ。

6/13/2024, 3:02:13 PM

 紫陽花が咲いた。

 梅雨に入ってすぐの事だ。

 紫に近い青の花を束ね、自己の存在を主張するかのように咲いている。

 空を見上げると、分厚い雲におおわれて、灰色に染まっていた。

 これが青空であったなら、どれほどこの紫陽花が美しく映えただろうか。

 しかし、今は梅雨なのだ。

 青空が見える日の方が少ない時期である。

 私は紫陽花が可哀想に思えた。

 これ程美しい花であるのに、青空を知らず、陽に照らされることも少ないのは悲しいことだ、と。

 だが、それでも紫陽花は立派に咲いている。

 それを見た瞬間、可哀想だという考えは消え去っていた。

 紫陽花は誰よりも、梅雨の時期を美しく過ごすことが出来る、という考えに移り変わっていた。

 私は、それが羨ましく思えた。