向かい合わせ
僕は野良猫。突然だけど、今、恋をしてる。
あのこの名前は...シロ。赤い首輪に、雪のような真っ白な体、見ているだけでしあわせな気持ちになれるつぶらな瞳が特徴的。シロちゃんはとってもいい奴。ご飯を分けてくれたし、僕が追い払われそうになったとき、守ろうとしてくれた。そんないい奴さに惚れたんだ。
今日もシロちゃんにこっそり会いに行った。多分、シロちゃん的には僕は友達。僕の恋心なんて、全く気がついて居ないんだろうな。でも、僕の力でなんとかシロちゃんを落としてみせる!!
でも、、、。シロちゃんってなんだか変。僕が「ご機嫌いかが?」って聞くと、、
「ワフッ!ワンワン!!」って返してくるんだ。
冗談混じりに「可愛いね笑」って言うと、
「アウ〜?ワフッ。」って返してくる。意思疎通がまるでできないや。
…そういうところも可愛いかも?
最近毎日うちに猫が来るようになった。シロのご飯を盗むから必死で追い返すんだけど、すぐに戻って来る。でも、シロは猫のこと、歓迎してるみたい。私から猫を隠したり、猫に私が来るタイミングを知らせたり…強い。
でも病気とか移されたら怖いしな…家族に相談しよっと。
ネズミのプレゼントをあげたら嫌そうな顔された。
たんぽぽを渡したらにっこり。笑顔で「ハァハァ」って言うんだ。食べれない物のどこがいいんだが。
ネズミの死骸がうちに落ちていた。これ、、。あの猫がシロに渡したものっぽい。病気とか本当に怖いよー!でも、自分の取った獲物を他の動物にあげるのって、猫からしたらすごいことらしいね。
…ひとつ、家族に相談しようかな。
まっ、まずい!人間に捕まってしまった。なんてことだ。もうシロちゃんには会えないのかな?そんな、、そんなことって、、
たのむ!もう一度だけ、僕とシロを会わせてくれ!信じられない!!
…ハッ!?ここは、、建物の中?しかし、見覚えがあるようなないような、、。
、、人間が居る!警戒しないと、、。
あれ、なんかくれたぞ?茶色い、、。これ、シロちゃんも似たようなの食ってたなぁ。シロちゃんん、、。
ふと横を見たんだ。そこに、、。シロちゃん!?
ま、間違いないぞ!この息遣い、この匂い、その体!シロちゃんだ!な、なぜここに、、!?
まぁいいや。また会えて嬉しい。僕は見つめながら「好きだよ!」
シロちゃんは「ワンワン!」って言ったのさ。ここは多分、安全な場所だし、ご飯も食べても平気そう。
このまま、ずっと一緒に居れたら…ふふっ。
うちの家族として、よろしくね!クロ!二匹は顔を見合わせて、「ニャーニャー!」「ワンワン!」って言った。「また会えて嬉しいよ!」「私も!」とか言ってたのかな?本当のことは、2匹にしかわかんないや。
家にはすぐに馴染んだし、ご飯も食べてくれてよかったー!これからも仲良くね!2匹とも!
やるせない気持ち
叶奈ちゃん。いつも神社にいた不思議な娘。あれ、神様的なやつだったのかもしれない。一緒に虫捕まえたり、飯食ったりしたなぁ。
でも、親が仕事の都合で引っ越すことになって、叶奈ちゃんとはお別れになっちゃった。
叶奈ちゃんは、
「私は大丈夫。でも、、いつか、またここに来てほしいな。ダメ?」
俺は確か、、。
「わかった!絶対、絶対大人になったらまた来るね!!」
って答えたっけ。
んで、叶奈ちゃんはお守りって言って、なんかの種みたいなのをくれた。手に渡った瞬間、叶奈ちゃんはどっかに行った。
それから引っ越した先で、すぐに友達もできた。テストも満点を取って、、。中学では大会で優勝できた。高校受験は第一志望に入学できて、彼女も。
貰った種は、どうしたらいいのかわからなかったんで、ダイソーで買ったプラケースに入れ、部屋に飾っといた。約束を忘れないために。でも、結局タンスにしまってそのまま忘れていた。てか、上手くいってたのお守りのおかげだったのかな?
大学生生活も何もなく順調に過ごしていたころ、ふと約束を思い出した。本当に急に。今まで忘れていたのに。猛烈に、「叶奈ちゃんのところにいかなきゃ!」って思った。夏休みに入る直前だったので、夏休みに入ったらすぐ行けるよう準備をすすめた。
懐かしいなぁ。この木。セミの抜け殻スポットで乱獲してたっけ。この家。超怖いおじさんが住んでいたんだけど、、。ピンポンダッシュで度胸試しに使われてて可哀想だった。この道。よくタバコの吸い殻とかペットボトルが落ちてたからボランティア活動(強制)で拾わされてたな。
っと、、到着。のはずだが、、。
ない。
聞くと、俺がここに来る一年前に解体が決まったらしい。で、俺が思い出したあの日、ちょうど解体が終わったそうだ。すぐに行けばよかった。ずっとずっと待っていたんだろう。俺が来ると信じて。だが、もう叶奈ちゃんが完全にいなくなる時に、思い出させてくれた。これの意味って、、。
帰って種を見た。この種、多分梅の種。だけど、、。割れちゃってる。
ちっちゃな植木鉢を買ってきて植えてみる。生えてくるはずもなく。
託してくれたもの、全部なくなっちゃった。あの娘の遺したもの、あの娘も全部無に帰しちゃった。
やるせない気持ちって、こういうこと言うのかな?
海へ
私の名前、あなたにちなんでつけられたのよ。
不安がいっぱいになっても、あなたの声を聞くと、とても安心できた。
あなたから頂いた思い出、、。ウニを投げた。魚を釣った。綺麗な貝でブレスレットを作った。絶対に忘れません。
あなたの香りを嗅ぐと、ああ、家に着いたんだなと思わせられた。
あなたを夜中遅くまでずっと眺めていたら、気がついたらキラキラ光っていて、その光で目が覚めた。とてもとても綺麗だった。
でも、さようなら。もう、ここへは戻ってきません。
「大丈夫、また会える。私は繋がっているから。」
言葉が聞こえた気がした。
知らない道に知らない家。知らない人。それで溢れかえったここに、唯一、知っているものがあった。
香り、声、光。溢れる思い出。
あなた、こんなところにもいたの?
別れの手紙なんて、バカみたいね。でも、あなたがいてくれてよかった。これからもそばにいてね。
海奈より。
裏返し
俺達はカップルだ。彼女は美咲ちゃん。みーちゃんって呼んでる。付き合い始めてもう一年。恋人らしいことが全くできていない。俺が引っ込み思案なせいだ。
だが、今日はみーちゃんの誕生日!おっと、焦って服が裏返しだったようだ。まだ来てなくてよかった。直せる。今、なんと、みーちゃん家に行って、ケーキとプレゼントを用意している。クローゼットに隠れて待とう。ああ、まだ来ないのかな?
お、遅い。おかしい。普段ならもう家で勉強を始める時間のはずなのに。
なんで?あぁ、家族と出かけているのかな?誕生日だもんね!
、、、ハッ!寝てた。今何時だ、、、?
って、9時ぃ!!??あ、ベッドにみーちゃんが居る。寝てる姿も可愛いなぁ。って、いけないいけない。
クローゼットを開けようと手を伸ばした。
私達はカップル。彼氏は将生。まーくんって呼んでるの!付き合い始めてまだちょっとだけど、、。うふふ。こういうの初めてだから緊張するなぁ。
私の誕生日。きっとサプライズを用意してくれる。まーくんはそういう人だから。逆サプライズしちゃお!
まーくん家。開きっぱなしのノート、ボロボロのサッカーボール、裏返して脱ぎ捨てられた靴下。まーくんらしいや。あれ、スマホがない。忘れてきちゃったのかな?まあいいか。『まーくん大好き!』そう書かれたケーキを持ってベッドの下に隠れた。ちゃんと事前にお母さんに許可も取ってある!
あ、あれ?おかしいな?
まだかな?まだかな?
私の誕生日、忘れてないよね、、?
今何時だろう?
もう七時?!仕方ない、寝ようかな。ああ、期待を裏切られた気分。私の誕生日に限って家に帰ってこないなんて。浮気かな。忘れられてるのかな。ああ、辛い。
ガタッ。
「な、なに?!」
「サプラーイズ!!誕生日おめでとう!!!」
「キャッーーー!!!アンタ誰!?」
「ん?みーちゃんの彼氏の金岡 "奏斗" だよ?」
「し、知らない、、。勝手に入ってこないで!どうやって家に!?」
「みーちゃんの為につくちゃった。合鍵。笑」
「、、、あれ、みーちゃん顔変わった?メイク落としたみーちゃんも可愛いよ笑
声も違うような、、?」
僕は将生。彼女ができた。嬉しいんだけど、、。彼女の誕生日が近い。何を買っていったらいいんだろう?妹に聞いてみよう。
「なあ、"美咲"ー。」
「んー、なあに?」
「今度さー、僕の彼女が誕生日なんだよね。」
「うんうん。え、いつ?」
「ちょうど1週間後。」
「えー笑私の誕生日と一緒じゃーん笑」
「あ、ホントだw」
「あー、アタシも彼氏欲しー笑」
「できるよいつか笑」
「いつかっていつよ?」
「いつかはいつかだよ。てか、誕生日何買ったらいいんだろう?」
「あー、女はみんな、〇〇とか喜ぶよ。」
「へー。他には?」
「他にはね、、、。」
誕生日だ!彼女の為にケーキもプレゼントも用意したぞ!よし!
「今日は美咲の誕生日だし、出かけるぞー!」
「えっ」
「今日、将生の彼女の誕生日なんだよ。将生だけ置いて行ってあげて。」
「知らん!家族サービスだ!ついてこい!」
父はいつもこうだ。無理矢理いいことをしたと通そうとしてくる。こうなったら、誰も止められない。
仕方ないので、ラインを打つ。見てくれるよな。あー、明日、一日遅れたこと、フォローしないと。
めんどくさい。許さん父。
補足。裏返しの意味。
1、物の裏を返して表にすること。
2、反対の立場、逆の視点から見ること。
鳥のように
私は牛。食用の牛。
ステーキ、牛丼、ハンバーグ。みんな好きでしょう?私らからできているんだ。
チーズ、ヨーグルト、クリーム。これ、私らの乳からできているんだよ。
でも、勝てない。
僕は豚。食用の豚。
生姜焼き、酢豚、豚カツ。みんな好きでしょう?
僕らからできているんだ。
でも、勝てない。
ああ、鳥には唐揚げ、フライドチキンがあるのにな。
ああ、鳥にはスクランブルエッグ、目玉焼き、卵焼きの材料の卵があるのにな。
私には卵なんて産まれない。有名な揚げのレシピもない。卵の汎用性に乳は負けてる。なんて要らないんだろう。
僕には乳も卵もなんにも出せない。肉だけ。なんて要らないんだろう。
鳥のように、いいものがあったらな。鳥のように、なりたいな。
妾は鳥。食用の鶏。
唐揚げ、フライドチキン。好きであろう?
妾らで出来ておるのだ。
スクランブルエッグ、目玉焼き、卵焼き。
パン、お好み焼き、チャーハン。
これ、妾らの卵からできておる。
でも、勝てないな。
アレルギーなどで気をつけている人を除いて、パッと後半は浮かばぬ。揚げものばかりが目立っている。こんな妾が牛さんや豚くんと並べられても良いものか。
、、、だが、妾がいなければ困る奴もおるはず。
羨ましく思う時もあるが、仕方がない。妾にできることと、みんなでできることを合わせて、最高の食事を届けたいと思う。
牛さん、豚くん、頑張ろうな!
鳥のように、鳥のように、なりたいな。
鳥のように、鳥のように、鳥のように、、、。