秋恋
俺は秋が好きだ。あの子を思い出すから…
秋ちゃん。なんと10月生まれで好きな食べ物は焼き芋。秋そのものの精霊みたいな感じ。
あの秋はとても濃い秋だった。俺の初恋だったから。
秋ちゃんの顔は別に特段可愛いわけじゃないんだけど、笑顔が素敵で話が面白くて。好きになっちゃうのも無理はないね。
そのまま告白にいったんだ。そしたら、「えっ。ちょっと考えさせて。」
もう折れた。死んでくる。って脳内の声は言ってた。現実の俺の声はあっ、えっ、うん。とかだったと思う。
だいぶ長い事悩んで「いいよ!」って言ってくれた。俺は下げてから上げるという女の子のトラップに引っかかったと思った。「でも、私と付き合ったら幻滅しちゃうかも…いい?」勿論!!
それからは一緒に焼き芋焼いて食べたり、一緒に課題したり、一緒にカラオケ行ったり。楽しかったな。
冬の足音がもう背後まで迫ったころ。秋ちゃんがこういった。「ねぇ。私達、別れよう?」
おかしいな。周りの音が聞こえない。目の前がまっくら。手汗がだろだろ。
なんで?と喉を絞って絞って声を出してみた。
「えーと。付き合う前から決まってたことなんだけど、私、引っ越すんだ。☓☓県まで。」
息の吸い方も、舌の置き場所も、目の動かし方もわからない。
そんなの嫌だ!他県に行っても俺は…!俺は…!「仕方ないなぁ。じゃあ、二十歳の秋になったら、迎えに来て。約束ね?て、忘れてるだろうけどw」
忘れるわけないじゃん。
あれから5年。俺は大きくなった。今夏だ。残暑に苦しめられてるけど全く暑くない。
ああ、早く秋、来ないかな。秋来い!!
「待ってたよ。」
胸の鼓動
ハアハア…
心臓がバクバク。足がガクガク。でも、まだまだ!全員を捕まえるまで終われない!あとは美沙ちゃんだけ!
「あははー!」「まっ、まてー!!」
「捕まるもんですか!」
ドキドキ。テスト返しの時間だ。このテストで点が高かった方がお菓子おごり。負けられない。
また1人、また1人呼ばれてついに僕の番!
「よし!僕の勝ちー♪」「えー、負けちゃったぁ。」
うぅ…緊張で胸が…手汗が…
「大丈夫だよ!あんたならできる!!!」
サッカーの試合開始。必死に、必死に美沙の言葉を思い出して戦った。
なんと優勝!
「さすが!できたじゃん!」
グッ。胸のドキドキが。収まらない。
「ちょ、美沙が僕の番号探して!」
「大丈夫。見てみ?」
125、130…162!163!!
「やった!合格だ!」
今までに無いほど胸がドキドキ。音がうるさい。そわそわ。
「話って?」
「あっ、あのっ、あっ」
喉まで来てるのにつっかえる。だがチャンスは今しかない!
「好きです!!付き合ってください!」
頬を赤く染める美咲ちゃん。
「…!待ってたよ、その言葉。」
「えっ、それって…!」
大学受験も、面接も、胸の鼓動がうるさかった。だけど、美咲の「大丈夫!できるよ!」の一言で乗り越えて来た。
「ねえ、私にね…」「なに?」「赤ちゃんがやってきたかもしれない。」「....!!」
胸の鼓動が速くなる。でもうるさくなんてなかった。
新たな胸の鼓動が始まった。僕と、美咲が半分半分、一つの心臓になって、小さな心臓を鼓動させた。
ツー。ツー。ツー。
美咲という、僕の心臓。今まで休みなく働いてくれてありがとう。ありがとう。
いつの間にか、ベッドにシミがあって、変な声が部屋をこだましていた。
美咲の胸の鼓動が止まっても、世界は止まらなかった。僕の胸の鼓動が止まっても、、。
向かい合わせ
僕は野良猫。突然だけど、今、恋をしてる。
あのこの名前は...シロ。赤い首輪に、雪のような真っ白な体、見ているだけでしあわせな気持ちになれるつぶらな瞳が特徴的。シロちゃんはとってもいい奴。ご飯を分けてくれたし、僕が追い払われそうになったとき、守ろうとしてくれた。そんないい奴さに惚れたんだ。
今日もシロちゃんにこっそり会いに行った。多分、シロちゃん的には僕は友達。僕の恋心なんて、全く気がついて居ないんだろうな。でも、僕の力でなんとかシロちゃんを落としてみせる!!
でも、、、。シロちゃんってなんだか変。僕が「ご機嫌いかが?」って聞くと、、
「ワフッ!ワンワン!!」って返してくるんだ。
冗談混じりに「可愛いね笑」って言うと、
「アウ〜?ワフッ。」って返してくる。意思疎通がまるでできないや。
…そういうところも可愛いかも?
最近毎日うちに猫が来るようになった。シロのご飯を盗むから必死で追い返すんだけど、すぐに戻って来る。でも、シロは猫のこと、歓迎してるみたい。私から猫を隠したり、猫に私が来るタイミングを知らせたり…強い。
でも病気とか移されたら怖いしな…家族に相談しよっと。
ネズミのプレゼントをあげたら嫌そうな顔された。
たんぽぽを渡したらにっこり。笑顔で「ハァハァ」って言うんだ。食べれない物のどこがいいんだが。
ネズミの死骸がうちに落ちていた。これ、、。あの猫がシロに渡したものっぽい。病気とか本当に怖いよー!でも、自分の取った獲物を他の動物にあげるのって、猫からしたらすごいことらしいね。
…ひとつ、家族に相談しようかな。
まっ、まずい!人間に捕まってしまった。なんてことだ。もうシロちゃんには会えないのかな?そんな、、そんなことって、、
たのむ!もう一度だけ、僕とシロを会わせてくれ!信じられない!!
…ハッ!?ここは、、建物の中?しかし、見覚えがあるようなないような、、。
、、人間が居る!警戒しないと、、。
あれ、なんかくれたぞ?茶色い、、。これ、シロちゃんも似たようなの食ってたなぁ。シロちゃんん、、。
ふと横を見たんだ。そこに、、。シロちゃん!?
ま、間違いないぞ!この息遣い、この匂い、その体!シロちゃんだ!な、なぜここに、、!?
まぁいいや。また会えて嬉しい。僕は見つめながら「好きだよ!」
シロちゃんは「ワンワン!」って言ったのさ。ここは多分、安全な場所だし、ご飯も食べても平気そう。
このまま、ずっと一緒に居れたら…ふふっ。
うちの家族として、よろしくね!クロ!二匹は顔を見合わせて、「ニャーニャー!」「ワンワン!」って言った。「また会えて嬉しいよ!」「私も!」とか言ってたのかな?本当のことは、2匹にしかわかんないや。
家にはすぐに馴染んだし、ご飯も食べてくれてよかったー!これからも仲良くね!2匹とも!
やるせない気持ち
叶奈ちゃん。いつも神社にいた不思議な娘。あれ、神様的なやつだったのかもしれない。一緒に虫捕まえたり、飯食ったりしたなぁ。
でも、親が仕事の都合で引っ越すことになって、叶奈ちゃんとはお別れになっちゃった。
叶奈ちゃんは、
「私は大丈夫。でも、、いつか、またここに来てほしいな。ダメ?」
俺は確か、、。
「わかった!絶対、絶対大人になったらまた来るね!!」
って答えたっけ。
んで、叶奈ちゃんはお守りって言って、なんかの種みたいなのをくれた。手に渡った瞬間、叶奈ちゃんはどっかに行った。
それから引っ越した先で、すぐに友達もできた。テストも満点を取って、、。中学では大会で優勝できた。高校受験は第一志望に入学できて、彼女も。
貰った種は、どうしたらいいのかわからなかったんで、ダイソーで買ったプラケースに入れ、部屋に飾っといた。約束を忘れないために。でも、結局タンスにしまってそのまま忘れていた。てか、上手くいってたのお守りのおかげだったのかな?
大学生生活も何もなく順調に過ごしていたころ、ふと約束を思い出した。本当に急に。今まで忘れていたのに。猛烈に、「叶奈ちゃんのところにいかなきゃ!」って思った。夏休みに入る直前だったので、夏休みに入ったらすぐ行けるよう準備をすすめた。
懐かしいなぁ。この木。セミの抜け殻スポットで乱獲してたっけ。この家。超怖いおじさんが住んでいたんだけど、、。ピンポンダッシュで度胸試しに使われてて可哀想だった。この道。よくタバコの吸い殻とかペットボトルが落ちてたからボランティア活動(強制)で拾わされてたな。
っと、、到着。のはずだが、、。
ない。
聞くと、俺がここに来る一年前に解体が決まったらしい。で、俺が思い出したあの日、ちょうど解体が終わったそうだ。すぐに行けばよかった。ずっとずっと待っていたんだろう。俺が来ると信じて。だが、もう叶奈ちゃんが完全にいなくなる時に、思い出させてくれた。これの意味って、、。
帰って種を見た。この種、多分梅の種。だけど、、。割れちゃってる。
ちっちゃな植木鉢を買ってきて植えてみる。生えてくるはずもなく。
託してくれたもの、全部なくなっちゃった。あの娘の遺したもの、あの娘も全部無に帰しちゃった。
やるせない気持ちって、こういうこと言うのかな?
海へ
私の名前、あなたにちなんでつけられたのよ。
不安がいっぱいになっても、あなたの声を聞くと、とても安心できた。
あなたから頂いた思い出、、。ウニを投げた。魚を釣った。綺麗な貝でブレスレットを作った。絶対に忘れません。
あなたの香りを嗅ぐと、ああ、家に着いたんだなと思わせられた。
あなたを夜中遅くまでずっと眺めていたら、気がついたらキラキラ光っていて、その光で目が覚めた。とてもとても綺麗だった。
でも、さようなら。もう、ここへは戻ってきません。
「大丈夫、また会える。私は繋がっているから。」
言葉が聞こえた気がした。
知らない道に知らない家。知らない人。それで溢れかえったここに、唯一、知っているものがあった。
香り、声、光。溢れる思い出。
あなた、こんなところにもいたの?
別れの手紙なんて、バカみたいね。でも、あなたがいてくれてよかった。これからもそばにいてね。
海奈より。