りん

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羅針盤

この海を一人漂って1週間は経つ。流木を集め、マッチで火を起こし、魚を釣り、食う。ちょっと遠い島に出かけるからと、生活用品を袋にまとめておいてよかった。

今どこにいるのかわからない。地図を忘れてしまった。とりあえず、北に向かうことにする。

さみしい。さみしい。人肌が懐かしい。

さみしい、さみしい。

今日は、俺と同じような状況の船とたまたま合流した。ソイツの船は、ボロボロで今にも壊れそうだったので、木材としてばらせるとこはばらしたあと、捨てた。ソイツを乗せてあげることにした。

2人分の飯を作るのは大変だ。俺は適当でいいが、ソイツはどうにも苦手らしい。しっかりと処理をしてあげた。俺はしていないが。

陸に帰るため必死で船をこく。1時間ごとに交代して漕いだ。一人では心細いが、2人もいるおかげで気持ち的には二倍だ。
どうにも、ソイツは力が弱く、俺が見る限りほとんど進んでいない。まあいいか。

2人で羅針盤が指す方向を見る。陸が見える!ついに俺…ぁっ!ついにっ…!
波に揺られ自然の一部と化した自分を、ついに文明へと、人間へと戻るときがきた。
いままでありがとう、この小さな船よ。そしてさようなら大きい海よ。


…と、漂流した船の日記帳には書かれていた。
船には日記と釣り竿などの生活に使ったらしきものをまとめた袋と、腐った焼き魚が乗っていた。まるで誰かに食べさせるために用意したのではないかと思うほどしっかり処理されていた。だが、人など乗ってはいなかった。

羅針盤は、ただひたすらに北を指していた。

1/21/2025, 4:08:35 PM