やさしい嘘
人魚に足をくれてやった。これで王子様の元に会いに行けるらしい。喜んでいたが、王子様とやらは悪人とここらでは有名なのだ。シャイレーンや人魚などの歌がうまいやつらを拐って売りさばいているらしい。理由はわからん。本当に売りさばいているのかもわからん。が、ここ最近たしかに歌が減った気がする。
なので、人魚に1つ条件を渡して足をやった。
「もしもだが、王子様がおまえに危害を加えようとしたらおまえは12時間後に、強制的に海に戻らされる。そういう運命なのだ。」と。
人魚は
「平気よ。あの人がそんなことするわけないもの。幸せに暮らしてくるわ。」
と言ったよ。
私は、人魚が一ヶ月帰ってこなかったことに安心と悲しみを覚えた。王子様と楽しく暮らせているなら人魚の望みは叶っているが、私は寂しいのだ。さらに歌が減ってしまって。
さて、魔女の集会に出るとするかね…
「やあ。これ最近入ったのよ。買っていかない?」
きらきらと輝く鱗。まるであの人魚の鱗のように美しい。心奪われる。
「これ、歌が入っているのよ。」
「歌?」
「人魚が最期に愛する人に捧げた愛の歌と言われているわ。私も聞いてみたんだけど、じーんときちゃった。」
「へぇ。それは聞いてみたいものだね。」
「で、どう?買っていかない?」
いいや、いらないよ。と言おうとしたそのとき。どうにも鱗のきらめきが目に入り、
「じゃあ、もらおうかね。」
と言ってしまった。
あー、またいらないものが増えた。私は魔女界でも物持ちで有名なのに。
…鱗が歌を聴いて欲しがっている。なんだか、そんな気がした。
そして、鱗に触れると…
『ああ、あなた。愛する貴方。貴方のためにこの体を捧げ、囮になります。悲しまないで。また巡り会えるから。この鱗を持っていてね。ずっとつながっていられるわ。また来世で会いましょう。』
…この歌。声。聞いたことがあるぞ。これはあの人魚の…っ!?なぜだ、死が近づけば、バラバラでも戻って来る呪のはず…
…鱗から思いがぐちゃぐちゃに伝わってくる。
そうか、王子様は財政悪化のためにお金がなくなり、命を狙われていて…それを助けるために希少な人魚として自身を売りに出たのか。
人魚は歌声を鱗に封印し、王子様に託したけれど、王子様も死んでしまい、魔女の手に渡ったのか。
ああ、足なんてやっぱり、あげるべきじゃないね。
次は同じ奴が現れたら、想いも伝えられないよう、声を奪ってやろう。人魚の誇りの声を奪われるなら、もうこんなこと起きなくて済むだろう。
1/24/2025, 2:37:07 PM