命が燃え尽きるまで
ある日の夜。星の綺麗な日。一織は陸から部屋に来いと呼び出された。
部屋の前に立ち、三回ノックをする。
「七瀬さん。失礼します」
返事を待つ必要は無い。一織と陸はそんな関係だ。
部屋に入ると窓を開けて空を眺めている陸がいた。
「体に障りますよ」
「ごめん。ちょっと考え事。でも、風が気持ちよくて」
一織はベッドにあがり隣に座る。窓から吹くそよ風がたしかに心地よい。
「一織」
「はい」
振り返って陸を見つめる。これは話を聞いて欲しい時の声だ。一織は陸に話を促すようにそっと肩をくっつけた。陸は窓に目を向けたまま口を開いた。
「オレ。入院してた時さ。数えられないほど、何度もお星様になりたいってお願いした事があって」
それは今のキラキラしたアイドルからは想像し難いお願い事だった。つまり幼き彼が願ったのは、、、。
「でもそれは叶わなくて。倒れる度に願ったのに。いつも神様はお星様とは真逆のものを与えて」
神様を呪ったよと笑う陸の顔は泣き笑いに近く、ひどく子供のように見えた。
「でも、IDOLiSH7になって、センターというお星様になっちゃった」
「来た人を笑顔にできるお星様です、そんなことを言わないでください」
一織はその顔が耐えきれず、陸を抱きしめた。
「七瀬さん。二度とそんなお願いしないで。あなたには命が燃えつきるまで一緒にいてもらわないと困ります、ので」
「遠回しに言った。……そうだね。おまえを手離す訳には行かない、し?」
陸は一織と目を合わせると唇を親指で撫でる。一織の心臓がドクンと高鳴った。
「……き、急にその顔、やめてください」
「どの顔?」
陸は片方の口角を上げたまま試すように問いかける。
「っ……かっこいい、顔」
「一織」
もう一度、今度は低く、恋人の名を口にする。そうして陸は頬を染めた一織の唇にそっと唇を重ねた。
それは少しばかり冷えた体を温めるような優しい口付けだった。
その日、窓の外から聞こえる雨の音で壮五は目をうっすら開く。
「ん……」
少しぼんやりとした頭でのそりと起き上がる。そうして窓へ目を向けると夜明け前なのか空はまだ黒に染っていた。
その黒が自分を飲み込んでしまいそうに思えて、壮五は慌てて目を逸らした。
「……たまきくん……」
隣に眠る自分の恋人に安堵のため息をこぼす。自分と違い心地よさげに寝息を立てる彼の頬に触れて心を落ち着かせる。
再び布団に潜り環の手を両手で包み込むと無理矢理にでもと目を閉じる。
「……寝れんの?」
不意に聞こえた声に目を開けるとこちらを見つめている環と目が合う。
「起こしちゃった?」
「起こそうとしたくせに」
そう言って笑う環に壮五はバレてたかと苦笑いを浮かべる。
「怖い夢でも見たん?」
「そうじゃない、かな。雨の音で、目が覚めたんだけど……」
拙く紡ぐ言葉を環はゆっくり耳を傾ける。
「真っ暗な空を見てるうちに、怖くなっちゃった」
「それで俺の手?」
「だって……環くんの手、おっきくて安心するから……」
環は小さく頷くと少し嬉しそうに口角を緩める。
「そーちゃん、手、パーして」
「ぱー」
言われるがままに壮五は両手を【パー】にして環から手を離す。すると今度は環が壮五の手を掴み自分に引き寄せた。突然の温もりに壮五は目をぱちくりさせる。
「どっちのほうが安心する?」
「ん……こっち」
自分よりも大きな背に腕を回して環の胸にそっと擦り寄る。
「起きるまでぎゅーってしてていからな」
「うん……」
環の優しい声を聞きながら壮五は少しずつ深く微睡みに落ちていった。
壮五の寝息を確認した後、軽く髪を撫でると自分も目を閉じた。