詩『新たな夢』
(裏テーマ・ルール)
俺は俗に言うオレオレ詐欺師だ。
最近では振り込め詐欺かな?
俺は高校の時までサッカー選手。
県の準決勝まで行ったんだぜ。
彼女との遊ぶお金欲しさに
羽振りの良い先輩に近づいたら
どっぷりこの世界だ。
ヤバいとは思うけど金は欲しい
だから、やめられない。
スポーツでルールは絶対だ。
だが、いかに破るかの戦いでもある
レフリーの見ていない死角で
ユニホームを引っ張ったり
肘でつついて遊んだり?
今もそうだ。
警察の見えない死角で戦う。
先日、仲間がドジして
バレそうになりパニックになって
おばあちゃんを刺した。
命は助かったけど逮捕された。
そのせいで捜査が厳しくて
ほとんど廃業状態だ。
しょうがないから居酒屋でバイト。
初めて料理をやってみた。
マニュアルというルールがあり、
その通りにすればいいだけなのだ。
ゴールの歓喜はないけれど
お客さんが美味しそうな顔をすると
嬉しかった。
親方が魚のさばき方も教えてくれた。
焼鳥の串も刺すのに秘密の工夫があった。
そして料理には、
ドリブルやシュートのような、
アイデアが重要だった。
面白いと思った。
事件のほとぼりが冷めて、
元締めから商売の再開の連絡が来た。
しかし、俺は組織から抜けた。
居酒屋で、
憧れのエースストライカーになるんだ。
そしていつか、
自分のチームを作りたい。
新たな夢が出来た。
詩『鯨幕(くじらまく)』
(裏テーマ・今日の心模様)
一日、誰とも会わない夜は
天井の木目が動きだす
そろそろと、ゆらゆらと、にょきにょきと
襲ってこぬかとにらめっこ
未来が不安で決心しても
朝陽が心にノックする
こんこんこん、どんどんどん、ガチャガチャ
やっぱり無理だとひざを抱く
こんなにあなたを愛してるのに
垣根を作って遠ざかる
すーすーと、ぴゅーぴゅーと、すきま風
何にも無かった振りをする
タータンチェックのハートの模様
いつしか汚れて真っ黒だ
しくしくと、ぽつぽつと、ぽろぽろと
鼻水、さそって決壊だ
わたしはいつでも死んでもいいの
今日の心模様は、くじら幕
ゆび鉄砲、こめかみに、そしてバキューン
死体じゃないのが…かわいそう
誰かがわたしを思っていても
いつも心模様は、くじら幕
ゆび鉄砲、こめかみに、そしてバキューン
生まれ変われたなら、いいのにね
詩『ばけねこ、こわい?』
(裏テーマ・たとえ間違いだったとしても)
ここはノラ猫が集まる集会所
ずっと空き家になってる二階建て
今日は長老が落語を聞かせる
落語嫌いの若者も
正座ができない年寄りも
みんなあくびをしながら待っていた
長くてもつれた毛並みを隠し
藍色の着物姿で登場して
ぼろぼろの扇子をぱちぱちさせて
座布団に座ると
あっという間にひっくり返る
仰向けにバタン!
「おーぉ!、だ、だいじょぶなのか?」
そんな声も聞こえぬかのように
長老は座り直し、話し始める
ときそば
じゅげむ
まんじゅう、こわい
上手な子守唄のように
全員がぐっすり眠ってしまった
長老だけが
あそこを間違えた、ここも失敗したと
大反省会
まぁ、こんな寄席はやめようかなと
決意したころ、
古い友人の人間が家に入って来た
白髪頭の長老の友人は動物専門の探偵だ
行方不明の子猫の探索のために
こうやってときどき協力している
報酬は大量のマタタビだ
みんなが集まるのも、それ目当てだ
「いたいた、ありがと、助かった」
探偵は三毛猫の子猫の首をつかみ
ひょいと持ち上げ出ていった
さぁ、起こして、
みんなでマタタビのお祭りだ!
こっそり人間と協力して
仲間の猫たちを騙す
たとえ間違いだったとしても
汚れ仕事は年寄りの仕事
そして、誰かに引き継いでもらう
長老はそう考えていた
それから、もうひとつ
長老には秘密にしてることがある
私は飼い猫だったんだ
幼い女の子のご主人様を
かばって身代わり死んだのさ
そしたら神様が
その子が二十歳になるまでは
この屋敷の中だけは
生きてるように暮らせるように
くてくれたのさ
この家は昔の長老の家
その子は引っ越した
長老を殺した犯人が両親を殺したから
実はずっと待っている
長老は逃げ続ける犯人が
いつかここに来ると思って
そう、化け猫になって
襲うことだけを夢見てる
「あ~ぁ、よく眠った、終わったの?」
一匹の猫のお兄ちゃんが起きて
それにつられて
つきつぎ他の猫も起き出した
「よーし、ここにマタタビはあるぞー!」
その声に歓声があがり
ノラ猫たちの祭りは朝まで続いた
詩『時速25キロ』
(裏テーマ・雫)
暗い宇宙に飛び出せば、落ちる、落ちる、落っこちる。真っ逆さまに、ぐんぐんと、意志の無いように、情けなく。
仲間に気づき、見渡すが、首が痛くなるばかり。しかし、無数の、何万?の、運命を感じてホッとする。ひとりじゃないって暖かい。ひとりじゃないって幸せだ。
約2グラム、時速25キロの流れ星。水の惑星だ。
そのスピードに慣れてゆき、飛び出たふるさと見返せば、そこには新たな弟たちが、不安そうに下を見る。震える足を少しずつ、ずらしてまえに進んでく。そして目をつむり、思い切って飛び出して、落ちてく弟たちの惑星は、キラキラと、夢見るように、光って見えた。
人生、半ばを、過ぎたなら、下の明かりに気づくんだ。赤や黄色や青やオレンジ、あれが、東京という街か。まるで天竺(てんじく)、夢の国、願いを叶える、魔法の世界。
僕らは、選ばれた、ソルジャーなのか、あそこで、何が、できるのだろうか、何を、すべきなのか、いや、何もできない。僕らは死ぬんだ。生きるって、一瞬だけの夢なのかな。
その時、強い風が吹き、仲間の半分は飛ばされた。流され、漆黒の山へと、向かってく。あらがい、泣いてる子供もいたが、どうすることも、できなくて、僕も泣いて、眺めてた。
そろそろ、落ちて、ぶつかって、僕らはきっと、死んじゃうね。
痛いのだろうか、苦しいだろうか、生き延びることは、できないのだろうか。
その時、生きてる生物が、手を差し出して、僕らを、受け止めていた。僕らの仲間の、死体を見つめ、美味しそうに?、ほほえんだ。そして、僕らに、名前をつけた、
「ねぇ、ママ、雨って、どこから来るの?」
僕らは、雫は、雨?らしい。
そして、悲しい、葬儀のように、東京の街を、濡らしてく。まるで地球が泣いて、淋しがって、いるように。
落ちて、落ちて、スピード、あげて、真っ逆さまに、落ちてゆく。
パシャ、パシャ、パシャ。
どうやら、僕は、アスファルト、首都高とやらに、ぶつかって、いろんなタイヤに、踏まれてる。意識が、しだいに、遠くなる。初恋の彼女を、思い出す。
流れて、古びた、景色が見える。
遠くの高い建物の上に、大きな看板があった。
あの看板は、子供の頃に下をのぞいて、そして見た看板だった。女神のように美しい、女優という笑顔がこちらを見てる。
僕の初恋だ。
やっと会えた。
死んでく僕はいつか、雨水から、嬉し涙の、雫になった。
詩『探偵、金内二悲惨の始まるまえ』
(かねないに、ひさん)
(裏テーマ・何もいらない)
何もいらない。
私の息子はいつもこう。
いらない、いらない、何もいらない。
金田一陽燦(きんだいち、はるあき)、15才。
父親似でイケメンで頭脳明晰。
幼い頃から何も言わなくても、して欲しいことをする赤ちゃんだった。私が困った顔を見せるだけで泣きやんだ。特に私の困った顔は効果抜群だった。
保育園に通い出してからは気味が悪いほど大人の心を見抜いていた。
「あの先生は言ってることと感情が違うから気をつけてね」
「あの叔父さんは借金のお願いだから貸したくなかったら話をそらして逃げること」
「あのお兄さんはお母さんのことが好きみたいだよ」
小学生になると大人しくなった。
成績はいつも満点だから、たまに95点だと驚いた。
あるとき息子から聞かれた。
「お母さん、相手がして欲しいことと自分がしたいこと、どっちを優先すべきかなぁ。相手を無視すると1日罪悪感が残って落ち込むけど、気を遣ったり助けてばかりいると疲れる」
そう、疲れたのかもしれない。
長い不登校の時間が来る。
中学生のときに、従兄弟の内二耕助(うちふ、こうすけ)が東京から転校してきて息子に寄り添ってくれて状況が変わった。息子も耕助ちゃんといつも一緒に学校に行くようになった。
まぁ、息子は耕助ちゃんを嫌ってはいたんだけど拒絶はしなかった。意外と名コンビのようだった。
そうそう、耕助ちゃんは息子のことを「ひさん」と呼んでいた。たぶん陽燦(はるあき)を呼びやすいように変えたのでしょう。
私の家はお金がない。
実は義理の祖父母の介護や施設の費用などで貯蓄もほとんど無い。介護のために仕事もあまりできないことも理由の1つ。
息子は幼い頃から手伝ってはくれてた。
そんな家の内情をよく知るから、
「何もいらない」
息子は今日もそう言う。
その息子があるとき、
「何もいらない、こともない」
そう言った。
どうしてもみんなで旅行に行きたいと言うのだ。
こんなわがままは初めてだったので嬉しかった。もちろん費用を考えたら安請け合いはできないけれど、私は絶対に行くと決めていたのでした。家族に相談するまえに。
そして、この旅行が息子を探偵にするキッカケになるのですが、この話はまたの機会にしましょう。
そして息子が旅行をしたいと言った理由は半年後には分かりました。
義理の祖母が亡くなりました。
なんとなく息子は分かっいたようでした。
予感でもなく霊感でもなく、統計学のような日々の変化で、心が感じるようでした。
どんな大人になるのか心配ではありますが、優しくて温かい探偵になると思っています。