ここのえ

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5/22/2023, 1:58:08 PM

昨日見た猫がいなくなっている。
ただそれだけのことなのに、私だけが過去に取り残された気分になった。みれば、ついこの間蕾を付けていた桜の樹に、青々とした葉がたっぷりと実っている。

時間が過ぎるのはあっという間。新しい季節がやってきて、新しいことに慣れて、失敗して、後輩が入ってきて、注意する立場になって。

私という土台はずっと不安定のまま、背伸びして上げた5cmのヒールの踵に靴擦れを抱えたままで。やること成すことはちっとも変わってやしないのに、立場だけが変化して勝手に失望される。

もううんざりと思ったのは何度目だろう。自分よりも後から飛び込んできた稚魚の方が、余程社会の海で泳ぐのが得意らしい。

ああ、熱帯魚。鮮やかな鰭を翻して泳ぐ海の華。

25度で生きる魚に、30度のアスファルトは暑すぎた。
私にあるのはフリルを蓄えたそれではなく、棒のように突っ立った二本の足のみ。

だけれども、曲げるぐらい、休むぐらい、許されてもいいのではないか。ガラスケースに飼われる観賞魚だって、水を選ぶ権利はある。息のしやすい場所を、探しに行きたい。

あの桜が洞になる前までに、きっと生まれ変わろう。






5/21/2023, 1:10:37 PM

何にも染まらないあなた。何にも染まれないわたし。
一文字違うだけで、なぜこんなにも惨めになるのだろうか。

将来の夢。習い事。友達との約束。結婚。
ぷかぷかと水面に浮く水泡のように浮かんでは消えて、性懲りも無くまた浮かんで。

赤が似合うあなた。黒が無難なわたし。
数多ある色の中で、自分のいろを選びとったひと。同じ時代に生きているのに、なぜこうまで清濁が偏るのだろう。

そう、例えば透明の水のような。
朝解けた雪水を飲んで海へと向かう水晶の欠片みたいな。

私がなりたかったのは、そういう、ただ在るだけで陽に抱かれる価値のあるもの。

色がなくてもいい。空のままでもいい。

そう言って、鮮やかな飴が透ける、砂糖細工のようなグラスにわたしの居場所を作ってほしかった。

何もないからと、零しても染みにすら成れない暗闇の床に、才能という名の水を置き去りにしないでほしかった。

春には鶯、夏には向日葵。秋には紅葉、冬は牡丹。

わたしはただ、あなたが、そう、他でもないあなたよ。

あなたに思い出してもらえる色に、季節に、なりたかっただけなのよ。