何にも染まらないあなた。何にも染まれないわたし。
一文字違うだけで、なぜこんなにも惨めになるのだろうか。
将来の夢。習い事。友達との約束。結婚。
ぷかぷかと水面に浮く水泡のように浮かんでは消えて、性懲りも無くまた浮かんで。
赤が似合うあなた。黒が無難なわたし。
数多ある色の中で、自分のいろを選びとったひと。同じ時代に生きているのに、なぜこうまで清濁が偏るのだろう。
そう、例えば透明の水のような。
朝解けた雪水を飲んで海へと向かう水晶の欠片みたいな。
私がなりたかったのは、そういう、ただ在るだけで陽に抱かれる価値のあるもの。
色がなくてもいい。空のままでもいい。
そう言って、鮮やかな飴が透ける、砂糖細工のようなグラスにわたしの居場所を作ってほしかった。
何もないからと、零しても染みにすら成れない暗闇の床に、才能という名の水を置き去りにしないでほしかった。
春には鶯、夏には向日葵。秋には紅葉、冬は牡丹。
わたしはただ、あなたが、そう、他でもないあなたよ。
あなたに思い出してもらえる色に、季節に、なりたかっただけなのよ。
5/21/2023, 1:10:37 PM