海の底に沈んでいくような、そんな静かな終わり。
手の中の宝物は粉々に砕け、もう元には戻せない。
小さく溜息を溢した。
誰もいない。ひとりぼっちの秘密基地。
結局、みんな忘れてしまったのだ。自分だけが子供で、みんなは大人になってしまったのだろう。
「仕方ない。大人になったんだから、仕方ない」
言い聞かせるように繰り返す。込み上げる涙を乱暴に拭い、歩き出す。
終わりなんてこんなものだと、無理矢理に笑ってみせた。
目を閉じて、外の音に耳を澄ませた。
かたかたと、窓が音を立てている。音を立てて過ぎていく風に乗って、空高く舞う自分を想像して笑う。
見下ろす街並みはとても小さく、煌びやかだ。きらきらと色鮮やかな灯りを見ながら、速度を上げて飛んでいく。
街を過ぎ、山を越えて、そして海へと辿り着く。
風に乗り、さらに高く飛んでいく。
このまま、海の向こうへと。
そんな想像をしながら、苦笑して目を開けた。
気がつけば、見知らぬ部屋で三面鏡を前に座り込んでいた。
窓から差し込む月明かりが三面鏡を照らし、暗がりに自分の姿を映し出す。表情もなく鏡を見つめるその姿は、まるで幽鬼のように虚ろだった。
鏡から目を逸らせずにいれば、自分の意思とは無関係に片手が上がる。鏡に触れようと、指先が近づいていく。
だが正面の鏡に映る自分は、凍てついたかのように動かない。虚ろな目をして、手が触れるのを待っている。
手が鏡に近づく。止めることもできず、逆らう意思もない。
微動だにしない、正面の鏡に映る自分へと指先が触れる、その寸前。
背後から伸びた誰かの腕が手を掴み、そのまま後ろへと引き倒した。
雪の白に染められた道に、そっと足を踏み出した。
ぎゅっ、ぎゅっ、と雪が押し潰される音がする。振り返れば真っ白な世界に、足跡が続いている。
灯りなどなくても見えるそれに、不思議に思って空を見上げた。
空には白い上弦の月。煌めく星々が、やけにはっきりと見えていた。
満月でないというのに、随分と明るい夜だ。視線を下ろし周囲を見るが、光源は見当たらない。
ただ降り積もる雪が、月の光を反射して。
灯りのようにぼんやりと、夜の闇を白く照らしていた。
祈ることで救われるのだという。
繰り返し言い聞かせられる言葉から逃げるように、家を飛び出した。
当てはない。無力な子供が一人で生きていけるとも思わない。
雪のちらつく外は寒々として、じりじりと体温を奪っていく。
帰らなければ。冷えた頭で考える。
帰りたくはない。熱の燻る心が叫ぶ。
祈ることで救われるなど、ただの幻想だ。
祈っても帰らない人を待ちながら、胸の痛みに顔を顰めた。