「もっと知りたい」
美しい君の後ろ姿を追う。
届かないと知っていながらも追うことを止められないのは、君が持つ中毒性と言うやつだろう。
ああ、今日も君はこの道を通ってコンビニに寄りつつ学校へ通い、この時間にこの道で帰るんだね。
ああ、もっと君のこと知りたいな…。
唐突に君がこちらに振り返る。
少し近づき過ぎたかと、電柱の影に隠れる。
君はキョロキョロとあたりを見渡して、いきなりダッシュで家とは別の方向へ走り去ってしまった。
突然の出来事に驚いてつい、君を見失ってしまった。
「はぁ、はぁ……ここまで来れば大丈夫かな…」
挙動不審な人物がひとり後をつけてきていることに気がついた。
きっかけは普段はいない路駐の車だった。
綺麗に手入れされた車はミラーのように自分とその背後を見せてくれた。
物陰に身を寄せながらこちらの様子を伺いつつ歩く人物。
見覚えは無い。
家までの中間地点であたりを見渡すと電柱の影に隠れる奴がいた。
そこからは無我夢中で適当な方向に向かって走った。
走っては振り返って走っては振り返ってを何度も繰り返して、空が完全に闇に包まれたところで、着いてきてないのを確認して帰路に着いた。
「ふぅ、ただいまー」
「おかえり」
奥から知らない声がする。
だって自分は一人暮らしのハズで……
「ごはんできてるよ、―――」
「遠くの街へ」
これ以上この街には居られない。
もっと遠くへ、遠い場所へ行かなくては。
全身の傷がビリビリと痛む。
ああ、身体が限界だと叫んでいる。
「キティア…」
無意識に愛しい人の愛称を口にする。
身体だけではなく心も限界に近いのかもしれない。
彼女に無性に会いたい、死ぬ前に、必ず…。
「幸せに」
キミならなれると信じている。
たとえ隣にいる人が私じゃなくても、どこに居ても。
それでも私の隣以外で幸せになって欲しくないと願うのは我儘だろうか。
誰かこの感情を受け入れてくれ
「とりとめもない話」
一緒に家で夕食を食べながら、今日あったことを報告する。
返ってくるのは適当な相槌だけの会話、というより事務的な報告。
でもそれができるのが平和である証拠なんだと、キミの傷跡を見て思う。
その傷跡が消えても、もう少しも傷付くことなんて起きないことを願っている。
「鐘の音」
鳴り響く鐘の音とともに大きくなる歓声。
教会から白いドレスと白いタキシードに包まれた2人が出てきて花弁が舞う。
仕事上の関係で呼ばれた結婚式、新郎新婦と特別仲が良いわけじゃない私は一歩離れたところからそれをただ見ていた。
みんなが幸せそうに楽しそうに笑い祝福する。だが私にはうまくそれができない。
それでも彼は私のとの未来を望んでいるのだろうか。
そんなことを考えながらぼーっと様子を見ていたら何かが飛んでくるのが見えた。反射的に手を伸ばしてキャッチすると、さっきまで新郎新婦に釘付けだった彼らが私を見て歓声を上げている。皆が私を見ている、私だけを…。
負の記憶がフラッシュバックして吐き気と眩暈が襲ってくる。やめて、チガウ、ワタシ、ハ…。
過去のトラウマに囚われて動けずにいると、心地良い音が聞こえて現実に引き戻された。
「良かったな、ブーケもらえて」
「…え?」
彼の声につられて手元に目を落とすと思わず手にしたものはさっきまで新婦が持っていた可愛らしいブーケだった。
スッと優しく抱きしめられキスをされ固まっていた体がほぐれる。やっぱりキミの隣は安心する。でもそんなに積極的に愛情表現をするなんて珍しいな。
落ち着いてあたりを見渡すと新婦が遠くから目配せのようなウィンクをしてくる。私が忘れているだけで彼女と何か約束していただろうか…?いや、待て。なぜここに彼が、ガノがいるんだ?今日は一日仕事だって…まさか、
「仕事サボったのか?」
「ははは、お前のそういうところも好きだよ、ティアラ」
――――甘く受け止められないのは、人間じゃないから?
所詮真似事だから?
*かんたんな設定
・私(ティアラ)→人に擬態して世界を見ている神族、ティアラは偽名、不特定多数の集団に注目されることにトラウマがある、結婚式自体良くわかってない
・彼(ガノ)→ティアラ同様神族だがかなり人間寄り、ガノは本名の愛称、仕事が休めず遅れて結婚式にやってきた
・新婦→私(ティアラ)のモデル(仕事)仲間、ブーケは狙って投げた
・新郎→彼(ガノ)の同僚