#64 香水
「いい香りね」
誰にともなく呟いてしまった、仕事の帰り道。
今年の夏は暑すぎて、
エアコンの効いた社内の空気すらも汗ばんでいるように感じる。
人のにおいは苦手。
リフレッシュにと思い、寄ったのは香水屋さん。
爽やかなシトラス。
華やかなフローラル。
目の醒めるようなウッディ。
甘いバニラ。
どれも素敵。だけど…
(自分につけても分からなくなっちゃうんだよね)
自分で分かる程に香る場合、香水をつけ過ぎているので注意、ということは。
つまり自分で香りを楽しむものではないんだろう。
他人へのアピール、フェロモンのような。
(そうじゃないんだよなぁ)
冷やかしになってしまって申し訳ないと思いつつ、
電車に乗るため、店を出た。
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香りから自分自身に対して効能を得ようとするアロマとは目的が違うんだよなぁ、ということで。
#63 言葉はいらない、ただ・・・
頬を赤らめて、瞳を輝かせて。
興奮を隠さない君の横顔を見れば、
この演目を心から楽しんでいる事は充分に伝わってきた。
「連れてきてくれてありがとう」
合間に身を寄せて小声で話す君。
その笑顔こそが、僕にとって何よりの褒賞だった。
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言葉の要らない状況って、瞳で愛を語り合うシーン以外だと何だろうなと考えて。
芸術に触れた時かな?と。
生で見たときの何とも言えない心の震えは、本当に言葉で表現しづらくて。そう考えるとアニメってすごいんだなとも思う。
ところで、どんな演目だったんでしょうね。
さて。別パターンで、もう1本。
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言葉はいらない、ただ・・・
見つめ合うだけで。
込み上げてくるの。
…笑いが。
だって、まさかあなたが…
知ったようでも、人って分からないものね。
#62 突然の君の訪問。
その唐突さは、いつものことだから。
もう驚かない。
だけど鼓動は、
いっそわざとらしいほどに
ドキッと跳ねた。
嬉しい。
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以前の創作を引き続き…と、いうのは難しそうだと見返してて思いました。
次のお題が出るまでに書き上げようと思うと、
どうしても粗が出ますね。
人物のイメージも読み取りにくいし。
#61 遠い日の記憶
過去には、
いくら手をのばしても届かない。
だから、
どれも遠い日ということにはなる。
小さい頃のことは、
良い思い出ほど自分では覚えていない。
あっても思い出すまで少し時間がかかる。
パッと出てくるのは根に持つようなことばかり。
それも忘れてしまえれば良かったのに。
子どもという生き物は、なかなか厄介なものだ。
大人社会の当たり前を知らず、
自分の道理を見つけ、
これが当然とばかりに出してくる。
しかし、しかし。
子どもにとっては
それが本当に当然のことなのだ。
効率より、未来の不利益より、
今この瞬間を楽しむ為に生きている。
生き急いでいると言ってもいい。
その勢いを完全に止めてしまっては、
理不尽に思う気持ちともに記憶に残るだろう。
私のように。
ならば、勢いを殺さず上手く流れていくように、
双方の道理を擦り合わせていくことが、
大人の本来の役目なんだろう。
自分の過去には手が届かないが、
目の前にいる子どもには手が伸ばせるのだから。
子どもが大きくなったとき。
彼らは遠い日に、何を覚えているだろう。
#60 終わりにしよう
おいおい、何を終わりにしようってんだい。
このご時世にあっちゃァ不穏な響きだねえ。
あー、そうだな。
こう暑くちゃ疲れるわな。
よしきた、今日は店仕舞いにしよう、な?
こっち座れや。ほれ、冷たいモンもあるぞ。
で?何があった。あ?何もない?
まあ弱味なんてもんは、
そう人に見せたいモンじゃねえ。
自分にとって致命的であるほどな。
そりゃ、こんなオッサン相手に言いたかねえよな。
だが何もないってツラじゃねえぞ。
あ?あー確かにいるな。
弱音をバンバン言う奴がな。
人間は群れで狩りをしてたからなァ。
言って助けてもらおうとする奴と、
隠して敵から身を守ろうとする奴と、
まあ色々いるんだろ。生きるための戦略ってか。
人間てのは息の長い生き物だよなあ。
20年かけて大人になってよ、
おんなじだけ時間かけて子ども育てるだろ?
昔は人生それで万々歳だったてえのに、
今じゃァどうよ。ああ、生き辛えよな。
だからこそ価値があるんだと俺は思うぜ。
自分にとって難しいんなら、その分余計にな。
そうだな、誰の役にも立たねえ話だ。
居るかも分からん、
ちっぽけなてめえに向けた話さ。
まあ難しい話は終いにしようや。
俺から振ったんだろ、って。
そりゃ言いっこなしだろ。
アイスならあるぞ。
それで勘弁してくれよ。