帽子かぶってお出かけする世界が調度良い。
上半分は無限に広がっていて、何となく邪魔だから帽子のつばで見えなくする方が良い。
四季折々の下半分の美しい世界を、雑踏に紛れ、泣きながら這いずり回りたい。
——— 帽子かぶって ———
家族揃っての夕食は本当に久しぶりだ。
普段は控えているお酒も、この時ばかりは自然と箍が緩む。
最近お酒を嗜むようになった娘も一緒に夜酌。
最近どう?の話の流れから、娘の恋愛事情に発展。
どうやら二人の男性に好意を持たれているらしい。
二人の男性は両者ともに知性が邪魔をして動きが物凄く緩慢だ。時に強引さも必要だと言うのに…呑気なもんだ。
話を聞く限り可哀想だが、娘の牙城は崩せまい。
難しいもんだな、恋愛というのは。
押しが弱けりゃ物足りなさを与えてしまうし、強引に推し進めれば引いてしまう。正に、寄せては返す波のよう。
ほっぺを桃色に染めたペリカンが、眼前の餌と酒をたらふく頬張り恋愛を語っている。
世の男共よ!
自信と勇気を持つのだ!
相手を楼閣だと勝手に己で解釈してはならない!
足元を見てごらんよ。
意外に砂の上だったりするから。
——— 小さな勇気 ———
思い返すと実生活に置いてシンプルな「わぁ!」って長らく使ってない…
「うっわぁ!」
「おわぁ〜!」
「ぐわぁ〜!」
「わ゛ぁ!」
「ん゛わぁ!」
だいたい上記五段活用に表情筋の合わせ技。
どこか濁ってる。
ピュアなあの頃に戻りたい。
——— わぁ! ———
何故そこまでの熱量を長時間保てるのだろう…
今宵も延々と愚痴を聞かされている。
残業したせいで、聞き手役は私一人。
娘は避難し終えて、自分の部屋で息を潜めている。
幾ら嘆こうとも助けはこない。
反論の余地は無い。
ならば、と同調してはならない。燃料を投下するだけだからだ。
チラリと時計を盗み見る。
もうすぐ明日がやってくる。
終わらせるために、オシッコでも漏らしてやろうかと、本気で考え始めた。
——— 終わりのない物語 ———
やさしい嘘の正体を知りたいならば、試しに自分についてご覧。
あら不思議。
自分の短所を炙り出す魔法の言葉に大変身。
ついたやさしい嘘は、諸刃の剣となってあなたをやさしく斬り刻み、本当の自分を浮き彫りにする。
だからこそ、人は時にやさしい嘘をつく。
大事な人が傷つかないように、片刃を事前に平にするのだ。
それはきっと、共感共苦の境地、労りの心。
——— やさしい嘘 ———