セイ

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12/13/2024, 8:32:51 PM

【愛を注いで】

好きな人にはとびっきりの愛を注いで、全力で尽くす。
そして最後には「重い」って言われて別れてしまう。

親から愛を貰えず育って、人並みの愛を欲しただけなのに。
愛されたことがない僕には正しい愛し方なんてわからない。
見様見真似でやってきたから他人から見れば僕の愛し方は歪んでるのかもしれない。
だけど、こんな僕だって感情のない化物じゃない、人間だ。
愛したいし、愛されたい。当然だろう?
…でも、誰からも愛されなかった奴は愛を求む行為のそれすら許されないのだろうか。
愛したモノ全部から拒絶される人生なんて、意味などあるのだろうか。

…次の人生ではちゃんと最後まで愛されたいな。

12/3/2024, 7:37:54 PM

【さよならは言わないで】

「私、アメリカへ引っ越すことになったの」

突然、密かに想いを寄せていた子からそんなことを言われた。
親の仕事の関係で来週からアメリカ暮らしになるのだとか。
お互いまだ学生だし、止めたくても止められないのはわかってる。
いっぱい言いたいこともあった筈なのに「…そっか」としか出てこなかった。

僕のこの気持ちは今は言えるわけがない。
…また会えるって、信じてる。
だから…さよならは言わないでくれよ。

彼女は何かを察したのか何も言わず、そのまま何処かへ去って行ってしまった。

…コレで、良かったんだ。
ごめんね、ズルい奴で。
…大好きだよ。

12/2/2024, 7:49:20 PM

【光と闇の狭間で】

…もうどれぐらい経ったのだろうか。
僕は今日も光と闇の狭間で漂っていた。
ある日突然、この『光』と『闇』だけが続く不思議な空間に放り出された。
本当に何もなく、海の中のような浮遊感を味わえるだけ。
最初こそ脱出を試みたりもしたが全て無駄に終わり、いつしか自分がなんなのかすら分からなくなってプカプカと海月のように光と闇の海を漂うだけの存在へと成り下がった。
時折、何処か懐かしい声が聞こえてくる。
しかし、それが誰のモノなのか、どうして泣いているような声で「帰ってきて」と言ってるのか全く理解ができない。
…いや、理解しようとすらしなくなったってのが正しいか。 
どちらにせよ、この声が僕の動く理由にはなっていないし、今は関係ない。
僕には大事な目的があった筈だけど、思い出すまではこの快適な海で漂っていたい。
だから僕は「邪魔しないでよ」と今日も声を振り払う。

全てから目を背け続け、プカプカと海を漂う海月はもう、現し世に戻ることはない。

11/30/2024, 7:50:53 PM

【泣かないで】

…自分の葬式を見ることになるなんて、コレは神様のイタズラなのだろうか。

3日前、仕事の帰り道に僕は心臓発作を起こした。
苦しくて必死に助けを求めたが人気の無い場所と時間帯で気づいてもらえず、通りかかった人が呼んだ救急車で病院に着く前にはもう手遅れ状態。
そのままポックリ…って感じだった。

呆気ない終わり方過ぎて思わず笑っちまった。
心残りは…同棲中の彼女と飼い犬のポン太を置いて逝ってしまったことぐらいか。
まぁ、金だけはあるから暫く生活に困ることはないだろう。

彼女が僕の身体が入った棺の前でわんわん泣いているのを見たせいで此方まで貰い泣きしてしまいそうになった。
最後まで迷惑掛けちゃったのホント申し訳ないや。

今は「泣かないで」とは言わないけど、次会いに来る時には立ち直っててくれよ。
僕のことなんか忘れて、ちゃんと最期まで添い遂げてくれる人と幸せになれよ。
それが僕の最後の願いだから。

…コレで終わりなのはやっぱちょっと寂しいけど、こんな神様のイタズラのお陰で最後に大事な人と会えた。
彼女自身には僕の声はもう届かないだろうけど、それでもこんな機会をくれた神様には感謝しかない。

「今までありがとう、愛してる」

11/28/2024, 8:07:23 PM

【終わらせないで】

「久し振り、元気だった?」

懐かしい声に目を覚まし、顔を上げるとそこには大好きな君が居た。
「あぁ、もうそんな季節だったっけか。お前も変わらず元気そうだな」
この季節になると、この場所に帰って来る君の話を聞くのが恒例行事。
仕事の話だとか、旅行の話とかとにかく色々。
君の話は毎回面白くて退屈しないから僕の楽しみの1つになっている。
「なぁなぁ、聞いてよ〜」
君はいつもの調子で話を始め、僕はいつも通り耳を傾けた。

「――でも、やっぱりさ…」

話が一段落した頃、君は少し俯いた。
そして悲しそうな顔を浮かべながら僕の方を向き、いつもの一言。

「勝手に終わらせないで欲しかった」

君の震える声と涙に毎回心がグッと締めつけられる。

「…ごめんな」

考えた末に絞り出した言葉は毎度同じ。
ただ謝ることしかできない自分に嫌気が差す。
ホント、最低だ。

「…じゃあ、また来るね」

「あっ、待って―――」

咄嗟に伸ばした僕の手は君の身体をすり抜け、何も知らない君はそのまま何処かへ行ってしまった。
傷だらけの手首を眺めながら僕は再び眠りに落ちる。
僕の声はもう、君には届かない。

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