セイ

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【終わらせないで】

「久し振り、元気だった?」

懐かしい声に目を覚まし、顔を上げるとそこには大好きな君が居た。
「あぁ、もうそんな季節だったっけか。お前も変わらず元気そうだな」
この季節になると、この場所に帰って来る君の話を聞くのが恒例行事。
仕事の話だとか、旅行の話とかとにかく色々。
君の話は毎回面白くて退屈しないから僕の楽しみの1つになっている。
「なぁなぁ、聞いてよ〜」
君はいつもの調子で話を始め、僕はいつも通り耳を傾けた。

「――でも、やっぱりさ…」

話が一段落した頃、君は少し俯いた。
そして悲しそうな顔を浮かべながら僕の方を向き、いつもの一言。

「勝手に終わらせないで欲しかった」

君の震える声と涙に毎回心がグッと締めつけられる。

「…ごめんな」

考えた末に絞り出した言葉は毎度同じ。
ただ謝ることしかできない自分に嫌気が差す。
ホント、最低だ。

「…じゃあ、また来るね」

「あっ、待って―――」

咄嗟に伸ばした僕の手は君の身体をすり抜け、何も知らない君はそのまま何処かへ行ってしまった。
傷だらけの手首を眺めながら僕は再び眠りに落ちる。
僕の声はもう、君には届かない。

11/28/2024, 8:07:23 PM