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7/6/2023, 10:12:21 AM

昔の友人は、魔法使いをしていた。
魔法使いといっても、漢方を煎じたり、自身の運命をルーン石で占ったりすることを生業としていた。
彼女の目には、普通の人には見えないものが見えるらしかった。
例えば、砂の一粒とっても、彼女にとっては、苦しみを刻む、一縷の運命に取れるらしかった。
子供の足音は、精霊の様相を身にまとっまているとも言っていた。
彼女の淹れる、生姜の入った甘草のハーブティーが、僕は好きだった。
妙な話で、彼女はいつしか消えた。
魔女だからだろうか? それとも、それも彼女は定めとしてとらえたのだろうか?
人に好かれていた彼女が、姿を消すとは、考えづらかったが、どこにも足跡を残さず彼女は消えた。
何を思って彼女は消えたのだろう?
僕への皮肉?
彼女を選ばなかった、僕への当てつけの如く、投函された手紙には記されてあった。
「さよらなら、バイバイ。私が生まれてこなかった日を、探しに行ってきます。それでは」

7/5/2023, 10:09:51 AM

都会ばった、故郷では、星は見えない。
どちらかというと、海に近く、霧の多いコウズという街は、雨が降るとぼうと汽笛の音が水蒸気にまぎれて、聞こえる。
湯気ののぼる、温泉街で、時折半裸のオジサンが手桶を持って、銭湯に通うのが、いつ見ても不思議だ。
町花温泉は、そんな温泉街の一角にある湯の花のこびりついたような銭湯である。
観光客である、僕は、250円払うと、番頭さんの頭を横目で見ながら、番台の脇を通り過ぎた。
のれんには男湯と書かれている。
温湯、あつ湯、水風呂があり、モザイク画のタカキ山が、濡れて曇った、天井に色を滲ませている。

7/5/2023, 7:49:32 AM

神様だけが知っている。
俺が、女であるということを。
俺、ミヒャエル・デ・アレッサンドロは、王侯貴族に転生した。
生前はしがない女子高生だった俺は、今では側室が3人いる、立派な男である。
なにをして、男とするか、これが問題だ。
俺は思う。
この、憎しみと自己顕示欲の渦巻く、貴族社会で、のし上がっていくものこそ、男だと。
だが、これは間違っているだろうか?
なぜなら、俺も、俺としての自覚を持ったのは、生まれて15年という歳月をかけ、培ったものであるのだから。
女ならばこういうだろう。
「それは、本当に性別というものなのでしょうか?」
と。
以前、男でもない女でもない娼婦を買ったことがある。そいつは言っていた。
無自覚にも、自身の性を選ぶことは出来ない。
女として自覚的に抱かれるか、男として自覚的に抱かれるか、その2つしかないと。
私は疑った。
本当にそうであるなら、私という性は、何者であろうか、と。