クローゼットの中を整理していると、
友人から
「苦労が多いね」
と、言われた。
友人は高級クラブのホステスである。
なるほど、彼女くらいになると、
着ている服で相手の心理状態が分かるらしい。
さすがである。
私は「そうなのよ…」
と、今までの苦労を赤裸々に語った。
語り終えると、友人はポカンとした表情を浮かべていた。
どうやら、
「苦労が多いね」ではなく
「黒が多いね」と言っていたようだ。
届かぬ想い…
「みんな、自分の願い事ばっかりで、
全然自分のこと気にかけてくれない」
神様ヘルプ窓口に訪れた神様は言った。
私はうんうんと頷く。
まずは相手の話を否定せずに聞くことが重要である。
今、ちまたでは
「ゴッドハラスメント」なるものが流行っているらしい。
登校拒否ならぬ降臨拒否、
不登校ならぬ不登降である。
「シヌノワイヤー!」
と、ロボットに乗った美少女が叫んだ。
快晴の空に響く。
怪人の私は何か強力なワイヤーを射出するのだろうと身構えた。
しかし、一向に射出されない。
どうやら彼女は
「死ぬのは嫌っ!」
と、叫んでいたらしい。
人間は非道である。
「さて、人間どもを殺戮しよう」
地球に到着して早々にリーダーが言った。
仲間達が頷く。
「今回はこの薬をこの星に散布する」
リーダーはおもむろに懐から小指サイズの小瓶を取り出した。
仲間達はそれを見て震え上がった。
「そ、それはあまりにも残酷ですっ!」
「わかっている。しかし、急がねばならん任務だ。致し方ない」
散布を終えた宇宙船は遠くの空へと消えていった。
僕は船内で先輩に尋ねた。
「あの薬ってどんな効果があるんですか?」
「人間を強制的に500年ほどしか生きられない身体にする薬だ」
「そ、そんな!なんて残酷で非人道的な薬なんだ!」
僕達、ヨクイキール人の寿命は約5億年である。
寿命500年といえば、ヨクイキール蝉と同じくらいだ。
はかな過ぎる。
自分達ヨクイキール人の残虐性に僕は憤りを感じた。
妻の父方の祖父が亡くなった。
地元では名の知れた地主だったらしく、
葬儀は盛大に行われた。
場が静まりかえった頃、
親族だけで集まる別室に移動した。
ほぼ部外者である私は大広間の片隅で小さくなっていた。
用意されたお茶に手をかけようとした時、
大声が響いた。
「歯は私がもらうことになってました!」
何事かと身を乗り出すと、広場中央に人混みができていた。
妻がこちらにやってきた。
「おじいちゃんの歯が誰のものかで揉めてるみたい」
「歯?」
「おじいちゃん、総入れ歯だったんだけど、それが全部金歯だったのよ」
なるほど、ただの歯ならばいざ知らず。
金歯になると資産である。
所有権について揉めているようだ
「奥から2番目はワシのだ!」
「犬歯は全て俺のだ!」
「一番大きいのくれるって言ってた!」
と、異様な会話が飛び交う。
私はヤレヤレと呆れてお茶を手にした。
妻が含み笑いを浮かべて言った。
「大丈夫。ちゃんと奥歯は確保してあるから」
私は何も言葉にできなかった。