幸太郎

Open App

妻の父方の祖父が亡くなった。
地元では名の知れた地主だったらしく、
葬儀は盛大に行われた。
場が静まりかえった頃、
親族だけで集まる別室に移動した。
ほぼ部外者である私は大広間の片隅で小さくなっていた。
用意されたお茶に手をかけようとした時、
大声が響いた。
「歯は私がもらうことになってました!」
何事かと身を乗り出すと、広場中央に人混みができていた。
妻がこちらにやってきた。
「おじいちゃんの歯が誰のものかで揉めてるみたい」
「歯?」
「おじいちゃん、総入れ歯だったんだけど、それが全部金歯だったのよ」
なるほど、ただの歯ならばいざ知らず。
金歯になると資産である。
所有権について揉めているようだ
「奥から2番目はワシのだ!」
「犬歯は全て俺のだ!」
「一番大きいのくれるって言ってた!」
と、異様な会話が飛び交う。
私はヤレヤレと呆れてお茶を手にした。
妻が含み笑いを浮かべて言った。
「大丈夫。ちゃんと奥歯は確保してあるから」
私は何も言葉にできなかった。

4/11/2024, 11:53:35 AM