「さて、人間どもを殺戮しよう」
地球に到着して早々にリーダーが言った。
仲間達が頷く。
「今回はこの薬をこの星に散布する」
リーダーはおもむろに懐から小指サイズの小瓶を取り出した。
仲間達はそれを見て震え上がった。
「そ、それはあまりにも残酷ですっ!」
「わかっている。しかし、急がねばならん任務だ。致し方ない」
散布を終えた宇宙船は遠くの空へと消えていった。
僕は船内で先輩に尋ねた。
「あの薬ってどんな効果があるんですか?」
「人間を強制的に500年ほどしか生きられない身体にする薬だ」
「そ、そんな!なんて残酷で非人道的な薬なんだ!」
僕達、ヨクイキール人の寿命は約5億年である。
寿命500年といえば、ヨクイキール蝉と同じくらいだ。
はかな過ぎる。
自分達ヨクイキール人の残虐性に僕は憤りを感じた。
妻の父方の祖父が亡くなった。
地元では名の知れた地主だったらしく、
葬儀は盛大に行われた。
場が静まりかえった頃、
親族だけで集まる別室に移動した。
ほぼ部外者である私は大広間の片隅で小さくなっていた。
用意されたお茶に手をかけようとした時、
大声が響いた。
「歯は私がもらうことになってました!」
何事かと身を乗り出すと、広場中央に人混みができていた。
妻がこちらにやってきた。
「おじいちゃんの歯が誰のものかで揉めてるみたい」
「歯?」
「おじいちゃん、総入れ歯だったんだけど、それが全部金歯だったのよ」
なるほど、ただの歯ならばいざ知らず。
金歯になると資産である。
所有権について揉めているようだ
「奥から2番目はワシのだ!」
「犬歯は全て俺のだ!」
「一番大きいのくれるって言ってた!」
と、異様な会話が飛び交う。
私はヤレヤレと呆れてお茶を手にした。
妻が含み笑いを浮かべて言った。
「大丈夫。ちゃんと奥歯は確保してあるから」
私は何も言葉にできなかった。
誰よりも、ずっと幸せになりたい。
そう思っていた。
誰よりも先に手に入れようとした。
相手を押しのけることに必死になった。
そして勝ち誇る。
競争に負けた相手を見下した。
「残念。こうゆう日もあるさ」
と、隣で負けた男が子供に言った。
子供は駄々をこねている。
「お昼はレストランで大好きなハンバーグよ」
と、男に寄り添う女が言った。
子供は不満ながらも大人しくなった。
そして二人の手をとって歩いて行った。
私の手には戦利品が握られている。
そこには幸せの証があるはずだった。
道端で夕日が沈んでいる。
思いの外、かなり沈んでいる。
私はどうしたものかと考えた。
声をかけるべきだろうか。
いや、沈んでいるだけで
落ち込んでいる訳ではないかもしれない。
沈むのが趣味なのかもしれない。
そもそも私ごときがなんと声をかければ良いのか。
私ごときが声をかけて、
余計に沈んでしまったらどうしよう。
と考えていると朝日がきた。
君の目を見つめると
君は不機嫌そうに目をそらしたね。
何日目だい?
前に君は目を腫らして
「面倒くさい」って泣いてたよね。
いいんだ。失敗は誰にでもあるから。
そこで二人で話し合ったじゃないか。
2週間に一度にしようって。
それでも上手くいかなかったっけ。
そのコンタクトレンズは
ワンデイアキュビューだよ。
何日換えていないんだい?